循环型社会推进と消え行く伝统工芸品の现状.pdf

序論 - 1 - 序論 研究目的： 日本の地域住民は、海に囲まれた地形から、地域内で収穫できる自然資源を活用しなが ら生活することを強いられていた。そのため、地域内での気候と知恵を活かした文化が形 成されてきたと考えられる。このように多くの日本の伝統工芸品は、物資の流通が限られ た地域で長い歳月をかけて地域住民と密着し、産地を形成してきた。しかしながら、近年、 地場の伝統工芸品の需要は以前と比較して圧倒的に減少してしまっている。その原因とし て、伝統的工芸品を購入しづらい社会・経済環境が上げられる。 大量生産・大量消費という物資文化と生活用品がいつも豊富に存在するという消費者意 識が定着している中、機能性、合理性を求めつづける消費性向が顕著に見られる。これは 消費者側だけではなく生産者の産業構造も関係する。コストの削減を追及し生産のしやす さを重視した工業化が日々進んでいる。店頭に羅列される商品の大半が工業製品であるた め、消費者が伝統的工芸品を目にし、手にとって、購入する機会が日常ではほとんど見ら れ無い。また、核家族化が増加し、生活空間が狭まり、生活形態が大幅に変化したことに より、需要が激減した伝統工芸品も多い。さらには、グローバル化が進み、その国・地域 独自で築き上げられてきた文化が、他地域、海外のより魅力的な文化と融合し、取って代 わられているしまったこととも関係している。このように地域のアイデンティティの消失 が伝統工芸品を駆逐してしまったケースも多くみられる。その他、伝統工芸品生産者は若 年層の都市志向による地域からの流出、技術者の高齢化や伝統工芸品産業の経営面の近代 化の遅れ、産業構造面でハンディキャップを背負っていることが、伝統工芸品の消滅の原 因のひとつになっている。 本論文は、グローバル化、工業化、近代化の中で、絶滅、あるいは絶滅の危機に瀕して いる多くの伝統工芸品の現状把握、その絶滅の原因分析、再興・「生きた継承」、つまり、 伝統工芸品を直接の指導のもとで受け継いでいくことを可能にさせる戦略形成を行い、そ れらの産地の地域振興に貢献することを目的とする。その結果、一般消費者に対し伝統工 芸品の持つ属性－絶対美学、環境に対する優しさ、地域社会への帰属性、等々、を再認識 してもらい、多くの地場の伝統工芸品の消滅防止、消滅プロセスの遅延、消滅した伝統工 芸品の復活が可能になれば幸いである。それは、歴史の中で継承されてきた技術や技術を 習得した人々の存在に関する一般的な認知度が高まり、自然資源、地域文化に基づく循環 型社会の形成へつながると考えられる。 - 2 - 本論文の構成は以下の通りである。 1 章：研究背景及び伝統的工芸品の現状分析 2 章：消え行く伝統工芸品の原因分析―生態系における絶滅危惧種との比較 3 章：循環型社会の形成に貢献する伝統工芸品振興の戦略 4 章：結論及び伝統工芸品絶滅危惧品目指定の意義 本研究の調査方法： （財）伝統的工芸品産業振興協会が各自治体が行っている伝統工芸品の実態調査や、一 般企業に依頼して、全国各地の伝統的工芸品の企業数、販売実績、職人数、主な企業名等 に関して行った伝統工芸品産地調査を元に、昭和53 年に発行した 「全国伝統的工芸品総覧」、 昭和 54 年、56 年、62 年、平成 4 年、7 年、11 年、14 年、18 年に発行した「全国伝統的 工芸品一覧」と各都道府県の伝統工芸品の制作方法を記した地域別の 「日本の伝統工芸品」、 その他、文献及びインターネットを使用した。個別の伝統工芸品の産地調査は行っていな い。 - 3 - 1 章 循環型社会推進と消え行く伝統工芸品の現状