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自動車がもたらす騒音の社会的費用とその評価方法 Social Cost of the Noise by the Automobile and the Evaluation Method 東北大学大学院経済学研究科 林山 泰久 １．はじめに 自動車の社会的費用を定義し，それによる社会的? 「自動車の社会的費用」なるセンセーショナルな 経済的歪みを補正するという技術的外部性 書物が刊行され，宇沢1 Technological Externality が先駆けて社会システムへ の内部化論について論ず 警鐘を鳴らしたのは1974年である．それから約30る． 年，今日では，急速なモータリゼーションの進展に ２．１ 自動車の社会的費用の定義 伴い交通ネットワークが整備され，その多大なる恩 社会的費用 Social Cost を如何に定義するかは， 恵に与っている．しかし，その一方で，交通による 様々な立場がある．しかし，一般的には，自動車の 騒音，振動，大気汚染および地球温暖化といった深 社会的費用とは，「本来，自動車の所有者ないしは運 刻な環境問題をもたらしていることは周知の事実で 転者が負担しなければならない費用を，歩行者ある ある．すなわち，我が国は，高度経済成長期以来蓄 いは住民に転嫁して，自らはほとんど負担しないま 積された深刻な社会的?経済的歪みに対する猛省を ま自動車を利用しているようなとき，社会全体とし 迫られているのである． てどれだけの被害を被っているのかということを何 それでは，「環境問題によってもたらされている社 らかの方法で尺度化したもの」，より簡潔に言えば， 会的?経済的歪み度合いは，どの程度なのであろう 「自動車走行によって社会全体に転嫁され，誰も自 か？」という問いに対して答えるべく，本稿では， 主的に負担しようとしない費用」という定義に落ち 自動車交通がもたらす環境問題の典型として騒音 着くであろう．ここで，有識な読者の中には，「この に着目し，まず，騒音の経済学的解釈および政策 定義は，社会的費用ではなく社会的損失なのではな 論を概観することを第１の目的とする． いか？」という疑問を持った方が少なくなかろう． また，理論のみならず，実際に我が国では，騒音 厳密に言えば，社会的損失と社会的費用は等価では を含む環境質への影響を経済学的に評価し，交通施 ない．例えば，人命は一度失われてしまえば，元に 設整備事業の採択という政策判断材料にするという 戻すことができないという意味で不可逆的であるた 試みが見られる．これは，効率的な社会資本整備の め，社会的損失と社会的費用は等価ではないのであ 推進，情報公開の必要性および説明責任の明確化等 る．しかし，本稿では，社会的損失を把握するため の社会的ニーズから，第２次橋本内閣組閣時の所信 の近似解として，人命や健康の損傷といった社会的 表明 1996.11 における「公共事業の投資効果を高め， 損失をでき得る限り費用化することによって社会的 その効率化を図る必要があり，公共事業の建設コス 費用として捉えるものとする． トの低減対策，費用対効果分析の活用等を計画的に なお，宇沢が主張している自動車の社会的費用と 推進されたい．」との指示に端を発している．この所 は，本稿の定義とは異なり「市民の基本的権利の具 信表明以来，各関連諸官庁では費用対効果分析の考 体的内容 例えば，健康で文化的生活の確保等 を明 え方およびその実施要領を詳述した費用対効果分析 確にし，自動車走行によってこのような基本的権利 マニュアル 俗称，以下では費用便益分析マニュアル が侵害されないようにするために必要な追加的投資 と総称する を取りまとめている．そこで，本稿は第 額」を意味していることに注意されたい． ２の目的として，道路整備事業の事業主体である ２．２ 技術的外部不経済とその内部化論 国土交通省が公表している「道路投資の評価に関す いま，自動車 正確には，自動車走行時 に技術的 2 る指針 案 」 外部性が存在しない財とする．この場合には，図－ の考え方を平易に解説し，さらに， その問題点と今後の課題を明らかにする． １のように自動車交通需要曲線D と供給曲線S の 交点E で均衡価格p と均衡需要量x が決定し，消費 ２．自動車の社会的費用と環境政策 ここでは，本稿の第１の目的を達成するために， 者余剰と生産者余剰を合計した社会的余剰が最大化 1 され，その時の社会的余剰は?BEC で計測すること ている場合に，それを内部化しない場合は，内部化 ができる．ここで，ミクロ経済学の定義によれ