日本古代に於ける建筑维持システムの研究（海野聡） .doc

日本古代に於ける建築維持システムの研究 GKRA08008海野　聡 １．はじめに １．１．研究の目的 　建築史研究者による古代の文献史料研究が進んでいるとは言い難い。さらに造営時の文献史料に関しては注意が払われてきたが、建物の維持?管理に関する記述に対して、十分な検討がなされていない。 　この維持?管理という点を含んだ先行研究としては、太田博太郎氏の『南都七大寺の歴史と年表』（岩波書店1979年）があげられる程度である。この研究は南都の各寺（元興寺?法隆寺?大安寺?薬師寺?興福寺?東大寺?唐招提寺?西大寺）の建築に関する文献史料を年表形式で整理し、まとめたもので、古代から続く大寺を通史的にみることができる貴重な研究である。 　しかしこの研究の中で、文献史料の出典を明記するものの、その膨大な史料のどこに建築に関する記述がなされたかについては記述されていない。『六国史』『正倉院文書』『類聚三代格』など、編年的に整理されているものについては、比較的、容易に探す事が可能であるが、その他の史料については、検索することが困難であり、原文にあたることが非常に困難である。 　そのため、本研究では古代を中心に、奈良時代の一大事業の成果である東大寺の維持?管理を含めた建築情報を文献史料の中から抽出し、東大寺の建築情報に関する基礎史料を収集することを目的とする。 １．２．研究方法 太田博太郎氏の『南都七大寺の歴史と年表』の末尾の年表の中から、東大寺に関する記述を抽出し、それをもとにそれぞれの内容の記される原文を探す。調査した史料は以下のものである。なお、末尾括弧内の番号は太田博太郎氏が『南都七大寺の歴史と年表』の年表において用いている番号である。 『六国史』（『日本書紀』『続日本紀』（2）『日本後紀』（3）『続日本後紀』（4）『日本文徳天皇実録』（5）『日本三代実録』（6）） 『日本紀略』（10） 『東大寺要録』（621） 『正倉院文書』（604） 『類聚三代格』（25） 『東大寺別当次第』（623） 『七大寺巡礼私記』（204） 『南都七大寺日記』（203） 『南都七大寺巡礼記』（211） 『東大寺造立供養記』 『玉葉』（161） 『東大寺続要録』（622） まず『国書総目録』http://base1.nijl.ac.jp/~tkoten/about.html）を検索した。しかし、国書総目録と同様に、写本が東大史料（茨城県菅孝次郎蔵本写）法隆寺（）鵤叢刊四東大寺およびその諸院?所領?末寺などに関する寺誌で、長承3（1134）に観厳によって再編纂され国書刊行会序文に大江親通が嘉承元年（1106）、保延6年（1140）の2度にわたって南都の諸大寺（東大寺?大安寺?西大寺?興福寺?元興寺?唐招提寺?薬師寺?法隆寺）を巡礼し、記録にとどめたものである12世紀前半ころにおける東大寺の様子を伝える史料として貴重である。 活字本は、奈良文化財研究所史料第22冊『七大寺巡礼私記』を用いた。 ２．８．『南都七大寺日記』 平安時代末期に南都七大寺などを巡礼した際の見聞記である。東大寺?興福寺?元興寺?大安寺?西大寺?興福院?唐招提寺?薬師寺?法隆寺（末尾欠失）の順に各寺の縁起、堂舎?仏像について記されるが、その記述は簡素である。しかし『七大寺巡礼私記』と同様に、12世紀前半ころにおける東大寺の様子を伝える史料として貴重である。 活字本は、大日本仏教全書寺誌叢書第四のものを用いた。 ２．９．『南都七大寺巡礼記』（菅家本諸寺縁起集） 『南都七大寺巡礼記』とは、南都七大寺をはじめとする大和国内諸寺院や、延暦寺?四天王寺?六勝寺?京都五山?鎌倉五山その他の名刹の縁起?堂舎?仏像などについて記した書である。室町時代前期に成立したとみられ、南都七大寺や唐招提寺について詳細に記述される。南都七大寺に関する記述は、『七大寺巡礼私記』を基本とし、さらに他書によって、新しい記事を補足しているが、なかには室町時代初期の年紀も見られる。 活字本は、大日本仏教全書寺誌叢書第四のものを用いた。 ２．１０．『東大寺造立供養記』 『東大寺造立供養記』は治承4年（1180）に平重衡の南都焼き討ちによって焼失した東大寺大仏の再建から、建仁3年（1203）の東大寺総供養に至る造立と供養に冠する記述をほぼ編年的に記した史料である。この記述のなかに、東大寺再建において尽力したことで有名な重源に関する記述が多数見られる。 活字本は、大日本仏教全書東大寺叢書を用いた。 ２．１１．『玉葉』 『玉葉』は平安末期から鎌倉時代初期の公卿であり、後鳥羽天皇の摂政、関白であった九条兼実の日記で、二条良基の改題に従って、『玉海』ともよばれる。長寛2年（1164）から建仁3年（1203）までの公私にわたる記録であるが、永