第18章 法の支配と法解釈のDogma（概念法学） .doc

WEB補論第18章　法の支配と法解釈のDogma（概念法学） 1.司法の原理としての法の支配（Rule of law） 英米法には、Rule of lawという司法の基本原理があり、「法の支配」と訳されている。「法の支配」とは、憲法によって「専断的な国家権力の支配を排斥し、権力を法で拘束することによって、国民の権利?自由を擁護しようとするものである」。一方、大陸法系の「法治主義」は、国家権力を法律によって統治し、法律には政治的権力者が政治的思惑から制定した法規範も含まれると解するので、「法の支配」と比較して、人権の保護に十分ではない。言い換えれば、法の支配は、憲法による統治支配の対象を権力者に向け、法を人権保障のための道具とするのに対して、法治主義は、法律による統治支配の対象を一般国民とし、法を国民統治の道具とする。また「法の支配」は「法の優位」であるといわれる。何が法規範であり裁判規範であるかの決定権は、政治的権力から独立した司法権（裁判所）にあり、司法裁判所は、個人の基本的人権を保護する。これが「法の支配」の核心である。 それでは、法の支配の思想は、法のDogma（ことばのもつ意味?内容（概念）を技術によって論理構成し具体化した法理論）とどのような関係にあるか。つぎは、「法の支配」の思想を手がかりに、法の歴史をとおして構築された現代法理論としての法のDogmaを解説することにしよう。 2.現代法解釈理論としてのDogma テキスト第5章１で、「法律学」とは、法が制定されて裁判に適用される過程を、技術および実用面から研究対象とする学問分野をいうと定義したが、「法の支配」の指導原理を基にすれば、政治権力および裁判権力を監視しコントロールするための技術の学問であると言い換えることが可能である。 近代法初期の大陸法は「法治主義」であった。やがて、アメリカ合衆国の独立宣言に影響され、フランス革命を経験した法の根底にある思想は権利の観念と一体化し、法 律 は、人々の自由を権力から護るためにあると認識されるようになっていた。ことばの技術による法規範の概念構成および論理構成は、法規範から紛争解決の規準（つまり裁判規範）を選択する過程の正当性と政治権力および司法権力のコントロールを、条文を構成する「ことば」の技術的機能の中に実現したものである。法技術の研究が進むと、「ことば」のもつ法的な意味内容も論理構成も、しだいに厳格なものとなり、やがて、前提とされる既存の法律の条文に含まれるべき意味内容を明らかにする高度な解釈技術そして厳格な枠組みをもつ文章の論理構成を分析する技術が要求されるようになった。制定法中心のヨーロッパ諸国や日本では、法律学の中心は、法律実務（立法や裁判）に必要な技術（実用法学）を提供する法規範についての解釈学となっている。解釈学は、ローマ法学以来、「ことば」によって表現される意味や内容を明らかにし確定することを研究対象としてきた。それは、19世紀から心理学?社会学などの学際的研究により急速に発展した言語学の方法とは異なり、中世の神学における聖書の教義手法（Dogmatikといわれる解釈学）に酷似している。法解釈学の研究は、条文に含まれる「規範」の意味?内容を認識することにある。つまり、法を解釈する者は、与えられた当為の内容を条文によって示され、その条文の中で前提とされる規範のもつべき意味?内容を法論理によって認識し形而上学的な証明を行う。法解釈学は、かような構造を有する。このように、法規範の「ことば」のもつ意味および条文（当為文章）の論理構成（枠組み）を前提とする解釈法学は、概念法学とよばれる。法解釈にとってのがれることのできないこの宿命的な演繹的性格は、法解釈のDogmaと呼ばれる側面なのである。 3.法の支配に対する法解釈の三段論法の意義 「法の支配」は、何が法規範であり裁判規範であるかについての決定権を司法裁判所に専属させ、裁判官を法解釈のDogmaを基礎とする法の解釈?適用?判断という法的三段論法に拘束せしめることによって、実現される。つまり、前者は、法の支配の外部に向かったコントロールによって実現される司法権の政治的権力からの独立の確保維持―三権分立―を意味し、後者は、それの内部に向かったコントロール―法のDogma―によって実現される公正な裁判の確保維持を意味する。このように、法的三段論法の過程は、近代法の「法の支配」の思想と結びついて、司法の独立と司法の公正を司法の内部から保障する機能を有すると考えられる点に意義がある（テキスト第6章3を参照）。 4.法解釈のDogmaの弊害 18世紀末から19世紀のヨーロッパ大陸における法の解釈および適用は、法解釈者の評価を入れず、法規範の文章の中に前提とされる「ことば」の意