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はじめに  アナモルフォーシスとは何らかの方法によって歪曲された図のことである。これは、ある決められた方向から見たり、曲面に映すことによって正しく見える。このような歪曲された図は日本語で『歪み絵』と訳されることもある。 これらは16世紀ごろ遠近法の技術からヨーロッパで発展し、多くの画家がアナモルフォーシスの制作に取りくむようになった。 下図は、ニスロンという数学者が書いた頭部のアナモルフォーシスの作画法である(図①)。これは、平面アナモルフォーシスと呼ばれるものでレオナルド?ダ?ヴィンチも1492年に手稿に記しており、ニスロンはそれに影響を受けている[6,10]。 これまで、遠近法とアナモルフォーシス両者の歴史や作図法について様々な文献等で考察されてきた。本研究では、それらの文献等を参考にし、アナモルフォーシスを幾何学的に解析する。 図①. ニスロン(仏;1638) 遠近法とアナモルフォーシス  遠近法と普通に言われている透視図法は、三次元の世界を二次元の世界に移し変える、つまり、立体を平面上に表現するトリック図法である。「遠近法」という言葉は、広い意味では、あらゆる絵画表現の遠近関係や空間の表し方を指す。しかし狭い意味では、ルネサンス期にイタリアで発見された線遠近法、いわゆる幾何学的な遠近関係を表現する方法を指す。また、線遠近法は、原像、視点、画面の三要素の相対位置で構成される。原像は描く対象、視点は対象を見る点、画面は対象が表現される面を示す(図② 参照)[5]。 線遠近法が書物としてまとめられたのは、アルベルティ(1404~1472)の『絵画論』であるといわれている。『絵画論』では、透視作図法の初期となる作図法、正統作図法が記述されている。      図②. 線遠近法 一方、アナモルフォーシスは1で述べたように16世紀ごろからヨーロッパで発展した。最も盛んになるのは、17世紀に入ってからである。この頃から、アナモルフォーシスについての作図法が活発に研究されるようになった。フランスでは、サロモン?ド?カウスやエマニュエル?メニャン、ジャン?フランソワ?ニスロンらが、アナモルフォーシスを描いている。特に、ニスロンの『奇妙な遠近法』(パリ、1638年)では、アナモルフォーシスの作図法について詳しく述べてある。  また、アナモルフォーシスは大きく二つに分類される。鏡を介して補正するよう描かれた画像(画法)と、何も介しないアナモルフォーシスが在る。前者は特に、ミラーアナモルフォーシス、光学的アナモルフォーシスと呼ばれる。円錐鏡アナモルフォーシスや円筒鏡アナモルフォーシスはミラーアナモルフォーシスに分類される(図③)。後者では、アナモルフォーシスが平面上に描かれているとき、その画像(画法)は、平面アナモルフォーシスである。平面アナモルフォーシスも、遠近法同様、原像、視点、画面の三要素の相対位置で構成される[9]。     図③. 円錐鏡(左)、円筒鏡(右)アナモルフォーシス  本研究では特に、平面アナモルフォーシスの原像(対象)、視点、画面の三点に着目し、その相対位置の変化によるアナモルフォーシスの図の変化を考察する。図④は、後にニスロンが本でまとめたとされるレオナルド?ダ?ヴィンチが描いた最古の平面アナモルフォーシスである。図⑤は平面アナモルフォーシスが描かれる時の立体構造である。 図④.平面アナモルフォーシス, レオナルド?ダ?ヴィンチ(1500年)      図⑤. 平面アナモルフォーシス 3. 空間設定  平面アナモルフォーシスについてニスロンの作画法(図①)を参考に原像、視点、画面の三要素の相対位置を三次元的に表現することを考える。そのために、アナモルフォーシスの原図として最も簡単な形状である正方形を用いる。 図①では、停点や基線、水平線、視心の明示されていないので、それらの項目を追加したのが下記の図⑥である。    図⑥. 平面アナモルフォーシスの作画法 図⑦は、図⑥の記号の下にアナモルフォーシスが描かれた時の見取り図を描いたものである。         図⑦. 見取り図 さらに座標を用いて解析するにあたり、透視図法のなかの直接法という方法を用いる。 直接法  直接法とは「視線の平面図と視線の立面図の交点によって描く方法」である。 平面図???物体を真上からみたものと考える。 立面図???物体を真正面から見たものと考える。(図⑧) 図⑧ 例えば、図⑨のように、描きたい点Aがあるとする。視点Eと点Aを結んだ線分AEが視線であり、直接法に変換するにはその平面図と立

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