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* * * * * * * * * 鍼灸師にとって＜自然治癒力＞とは何か 筑波大学理療科教員養成施設 2009.10.14 松田博公 発端 平野重蔵著『病家須知（びょうかすち）』　（農山漁 　　村文化協会）　「病人のいる家は須く知るべし」 　　という題名の家庭医学書。 原著刊行、天保３（１８３２）年。幕府崩壊約３０年 　　前の幕末。 2006年９月、看護史研究会が現代語訳。 定価２万９０００円もする江戸の養生専門書が、 　　たちまち１５００部売れた。 「すべて病で熱が出、腫瘍で膿をもつのも、みな身体の元気がその病毒を追い払い、体外へ排除しようとするのである。これは自然作用力（テンネンノハタラキ）のなすところであり、医者はただその足りない力を助け、病毒に対抗する元気が負けないように、薬や鍼灸を用いるのである。作用力が病毒を排除するのに十分ならば、必ずしも灸や薬の必要はなく病気は自然に治る」　（巻之一「みだりに薬をもちうべからざる心得を説く」） 【疑問】 テンネンノハタラキとカナが振られた「自然作用力」という言葉は中国古代の医学書には出てこない？ 西洋語から翻訳された日本語のよう？ 当時必威体育精装版のオランダ医学からの輸入概念ではないか？ 中国の自然治癒力（Ⅰ）古典文献から 「自ら生きるべき者、我これをして起たしむるのみ」（『史記』扁鵲倉公伝） 「病ありて治せず、常に中医を得る」（『漢書』芸文志?経方の部） 「病を本となし、工を標となす」（『素問』湯液醪醴論篇）　 「これを明代の医師、馬蒔が「病者を本となし、医工を標となす」と解釈したのは正しい。治病の主役は病人自身で、医師は補助的役割を果たすに過ぎないこと、病人自身に自然治癒力（原文では「自然痊癒機能」）が備わっていることを説いたものである。扁鵲が「私は死人を生かすことなどできない。みずから生きるべき力を持った病人に対し、その力を惹起するだけである」と言ったのは、そのことにほかならない」（龍伯堅『黄帝内経概論』　東洋学術出版社） 「上工は十に九を全うし、中工は十に七を全うし、下工は十に六を全うする」（『霊枢』邪気臓腑病形篇） 「１０人中６人を治癒できるか（６０％）が医師として認められる最低の治癒率ということになる。数字がそれより低ければ、病人は自然に治ってしまったのであって、医師の力によるものではない。ここでもやはり、病人の自然治癒力が重視されている」（同上） 　　 中国の自然治癒力（Ⅱ）兵家の思想の影響も 中国の医師も古代から、病を治癒するおのずからなる力が人間に内在していることを知り、それを尊重するのが医療の原則だと考えていた。 それを自然治癒力の認識の第1段階とするなら、第2段階で、中国では、治癒する力を＜正気＞、病気の原因や結果の、患者にって否定的な現象やエネルギーを＜邪気＞と定義する。治癒とは＜正気＞が＜邪気＞を打倒することである。ここには、闘病を戦争になぞらえる発想が生まれ、兵家の影響も。 「兵法に曰く、逢逢（ほうほう）の気を迎うることなかれ、堂堂の陣を撃つことなかれと。刺法に曰く、熇熇（こくこく）の熱を刺すことなかれ、漉漉（ろくろく）の汗を刺すことなかれ、渾渾（こんこん）の脈を刺すことなかれ、病と脈と相逆する者を刺すことなかれと」（ 『霊枢』逆順篇） 「ゆえに善く兵を用うる者は、その鋭気を避けてその惰帰を撃つ。これ気を治むる者なり。（中略）正々の旗を迎うることなく、堂々の陣を撃つことなし。これ変を治むる者なり」 （『孫子兵法』軍争篇） やがて、＜邪正闘争＞＜扶正袪邪＞などの概念が整理され、現代中医学に引き継がれる。 いっぽう、ヒポクラテス医学では、中国において＜邪気＞と否定的に位置づけた発熱、下痢などの症状を、先に述べたように、生きようとする生命の働きであり、それが発現することで病は癒えるというように、肯定的に位置づけています。（この認識の背景に、恐らく、ひとは苦悩や苦痛を通して救済に至るというギリシャ、キリスト教的な宗教観の影響があったでしょうが、いまは触れません） 中国の自然治癒力（Ⅲ）現代の伝統医学派 高式国『鍼灸経穴名の解説』（燎原） 「経気が流れ行きて互いに助け合うように配置されているのは、先天的なものであり、後天性が生成される源となる。養生家はこの妙を守って調節しているにすぎない。医薬家も外界の物質を利用して補足しているにすぎない。鍼灸も人体にもとから備えられている機能の亢進を抑えたり低下を高めたりしているにすぎない。これらすべてが養生の道である」 傅景華『捍衛中医』（中国協和医科大学出版社） 「医道の目標は、生命の全面的な自主実現、全面的な自由発展、全面的な調和である。中医は治病の医学であるだけでなく、人を和する医道でもある。中華の医道において道を治めると