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途上国の食品貿易と食品安全規制

箭内彰子?道田悦代編『途上国の視点からみた「貿易と環境」問題』調査研究報告書 (中間報告) アジア経済研究所 2012 年 第5章 途上国の食品貿易と食品安全規制 飯野 文 要約: 本稿では、食品安全の確保をはかりながら途上国が貿易上の発展を遂げるための課題 を明らかにすることを中心的な問題意識として、関連する国際的規律(主にSPS 協定) の特性、途上国の食品貿易の動向、SPS 委員会における過去の「特定の貿易上の関心事 項」を中心に検討し、食品の輸出局面で途上国が関わる課題の抽出を試みた。 その結果、SPS 措置については、SD 条項を通じた途上国支援に比して、キャパシ ティ向上支援の重要性が高まるとの暫定的方向性、食品貿易における中所得国とそれ以 外の国との二極化の実態、食品の輸出局面における途上国の課題として、輸入国の緊急 措置と基準、科学的不確実性(GMO)、民間基準、輸入国の食品安全確保体制、潜在的 課題として輸入国のFTA 締結に伴う基準の厳格化が考えられることが示唆された。ま た、これらの課題に対してWTO やコーデックス委員会が行っている途上国支援策の状 況や、食品の輸入局面における途上国の課題等について次年度以降に更なる検討が必要 であることを指摘している。 キーワード: 食品安全、WTO、途上国、コーデックス委員会、SPS 協定 はじめに 食品安全に対する社会的関心は近年ますます高まりつつある。特に貿易との関連では、 1995 年の世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)発足以降、EC -ホルモン牛肉 事件 (WTO [ 1998])、狂牛病の発生に起因する牛肉の輸入制限措置、遺伝子組み換え食 品に関わるEC -GMO 事件 (WTO [2006b])など、食品の安全性が関わる貿易紛争も発 1 2 生してきており、広く国際社会の関心を集めるところとなってきた。 1 食品安全に関わる貿易紛争については、藤岡[2007]に詳しい。 2 例えば、OECD は、1999 年に食品の安全性?品質から生じる国際貿易上の摩擦について検証 国内において食品の安全を確保する手段として、各国が衛生植物検疫措置(Sanitary and Phytosanitary Measures: SPS 措置)をとる権利を有することは、WTO 協定-特に、 衛生植物検疫措置の適用に関する協定(Agreement on the Application of Sanitary and Phytosanitary Measures: SPS 協定)上も認められている。しかし、先進国のSPS 措置の 高度化により、資金力や技術力で务る途上国の生産者がそれに十分に対応できず、先進 国市場に輸出ができないのではないか、ひいては、SPS 協定の発展が世界の所得分配の 悪化につながるのではないかという懸念が示されるようになった(山下[2008: 381])。 これまでの先行研究においても、先進国における基準の導入が途上国の輸出に負の影 響を与え得ることが指摘されている(Sheldon [2011: 395])。例えば、国際基準よりも厳 格なEU のアフラトキシンに対する基準の導入により、アフリカ諸国の穀類等のEU 向 け輸出が670 百万ドル減となるとの評価がある(Otsuki et al. [2001: 511])。また、国連 工業開発機関(United Nations Industrial Development Organization: UNIDO)による最近の 包括的な調査によれば、2002~08 年の間に、米国及びEU が行った一定の食品の輸入差 止件数のうち、途上国の割合は米国で6 割強、EU で7~8 割を占め(UNIDO [2010: 19, 21])、 米国においてはラベリング、企業/加工登録要求(company/process registration requirements)の不遵守、EU においてはマイコトキシン含有基準の不遵守が主な差止理

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