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第3章 経年劣化による防火性能低下に関する検討 55 3.1 目的 建築物の防火対策として、防火材料、耐火材料などの火災に強い材料の使用や、避難や排煙な ど火災安全性に必要な様々な設備が用いられている。 既存建築物では、これらの材料や設備の長期使用により、材質?形状の変化を起こしたり、機 能不全を起こし、初期に期待された防火性能が維持できなくなっていることが危惧される。 本章では、長年使用されてきた既存建築物で防火性能の低下が予想される材料や設備について、 その経年劣化の可能性を事前に予測し、その対策について考察するものである。 3.2 材料の経年劣化とは 建築物に利用される材料は、長年にわたる使用と厳しい環境変化にさらされることで徐々に変 化し、当初持っていた性質?性能も低下することが経験的に知られている。 このような材料の経年劣化の問題は、材料の耐久性の問題として多くの研究が積み重ねられて きているが、定量的な結果を得るために長年月を要すること、材料がおかれた環境状況によって 結果が大きく異ってくること、モデル的に促進試験によってデータが得られても、その結果がど のような実態環境の何年分に相当しているかといった判定がむずかしいことから、明確な解答が 得にくい状況にある。 しかしながら、建物の安全性評価に直接係わるコンクリートの中性化問題や木材の腐朽問題あ るいは鉄骨の防錆問題などでは、材料の耐久性評価を組み込んだ設計指針のもとで、構工法規準 や設計規準が定められている。 また、このような構造安全性の問題とは別に、仕上材一般についても美観の維持、はくり?は く落の防止、建築条件や環境条件をふまえた材料の選定といった視点から、材料の耐久性を配慮 した設計や維持保全の問題が注目され、特に厳しい環境外力にさらされる外壁材料では、材料の 選定や取付構法及び施工法にいたるまで、耐久性の確保に注意深い配慮が払われている。 仕上げ材料の劣化現象を観察すると、材料と劣化を促す外力との関係には、物理的劣化と化学 的劣化に大きく 2 分され、それぞれ次のような劣化現象を見ることができる。 1）物理的劣化 ひびわれ、割れ欠け、はくり、はく落、凍害、変形?へこみ、損耗、反り?曲り、ふくれ? ゆるみ 2）化学的変化 よごれ、しみ、変退色、白華、表面劣化、腐食、腐朽?虫害 このような仕上げ材料の劣化現象について、その発生形態や原因、関連する材料?工法、発生 時期などを対応させて、表 3- １にまとめて示す。 また表 3-2 には、1980 年代に使用されていた主な仕上材を部位別に示し、それらの材料がそれ ぞれどのような劣化性状を示す可能性があるか、その発生頻度、劣化の程度、メンテナンスや補 修の方法、メンテナンス上の留意点などをまとめて示した。 なお、仕上材料の経年劣化には、構造材料や下地材料の劣化やムーブメントに追随して発生す る場合が多いことや、接着剤や接合金物及び、目地材やシーリング材の劣化に影響されて発生す る場合も多いことに留意したい。 56 表 3-1 仕上げ材料の劣化現象と発生形態およびその対策 劣化現象 説明 発生形態 原因 関連のある材料?工法 発生時期 無機系仕上げ材料に発生す ?温冷?乾湿ムーブメントの拘 ?急激な乾燥?加熱などの環境 ①竣工後半年以内 セメントモルタル塗り?人造石 る。 束 条件の変化 ②突発的 塗り?しっくい塗り?石張り?陶 特に乾燥収縮性がある場合に ?地盤または構造の変形?ひ ?材料(下地材?構造材)?工法? ひび割れ