A．ホネットの社会哲学-KyushuUniversityLibrary.pdfVIP

A．ホネットの社会哲学 索十△口腔ナAス？1、〆ハηへ」缶丁田！ハ士田土艮 1＿」Lハμ」「（あ　’q／　U　V／Vノソ1ノコ老ゴニVノコ］’J7．ヨビ 大　二 二 要　　旨 　本稿の目的は、現代批判理論の旗手A．ホネットによる社会哲学の歴史の再構成を概観す ることを通じて、社会哲学のモチーフを受け継ぐ〈近代の自己認識の学〉としての社会学の 危機を、克服する可能性を探ることにある。社会哲学は歴史的に、政治的一道徳的な規準と は異なる倫理的な基準を掲げるものであるが、その基準のもとにく善き生の条件〉を損なう 社会の特定の発展過程は、〈社会的なるもの（Das　Soziale）の病理〉として把握されてきた。 普遍主義的な診断の要求は、ニーチェ以降ポスト構造主義を経て、相対主義の脅威にさらさ れているが、そのアポリアをホネットは、〈相互承認〉論という〈形式化された倫理〉の構 想のうちに解決しようと試みる。本稿ではその構想をふまえたうえで、〈近代の自己認識と しての社会学〉の再生には、〈承認論の経験科学化〉と、〈承認秩序の経験的分析〉が必要で あるという点を指摘した。 キーワード：近代の自己認識としての社会学、社会的なるものの病理、相互承認 1〈近代の自己認識としての社会学〉の危機と、社会哲学 　今日〈近代の自己認識の学〉としての社会学は、脱近代を志向するくポスト構造主義〉と呼 ばれる一連の思想運動の挑戦によって、自己理解（アイデンティティー）の危機に陥っている ということができる1）。 　かつて社会学の自己理解をめぐって行われた論争の例としては、K．ポパーやH．アルバート らの批判的合理主義と、T．アドルノやJ．ハーバーマスらのフランクフルト学派との間で行わ れた、〈実証主義論争〉を挙げることができよう（Maus＆FUrstenberg　eds．1969＝1978）。そ こでは、科学的厳密性と方法的客観性をめざす実証主義的社会科学に対して、それが導きだす 方法論的、イデオロギー的な決断主義への批判が、批判理論の側からなされた。だが今日の状 況から考えてみると、その批判によって問われた問題点はそれほど深刻なものではない。なぜ ならそれが、実証的認識の先験的条件への反省の欠如であった点からもうかがえるように2）、 一　97　一 実証主義はその批判を甘受するとしても、基本的に「信頼しうる認識はいかにして可能か」を 問う、近代認識論の系譜に位置づけることができるものだったからである。 　その意味で近年のポスト構造主義の挑戦は、かつての実証主義のそれよりも、重大な問題を 提起しているといえる。なぜならその挑戦は、認識論の背後にある近代哲学体系そのものに対 する懐疑の視点を、提起するものだからである。ポスト構造主義は、構造主義がもたらした認 識論的革命を踏まえつつ、それが提起した哲学的形而上学への批判をさらに推し進める。例え ばJ．デリダによれば、すべてをポジティブな相の下に解消する西欧形而上学は、実証主義で あるとないとにかかわらず、〈主体への現前〉を真理の価値とみなす現前の形而上学、ロゴス 中心主義にほかならない。このようなニーチェ的なパースペクティヴイズムがもたらす価値転 覆は、単に知的ではない社会現象として、近代市民社会の根底に潜む相対主義とニヒリズムの 問題を、改めて浮き彫りにする3）。そしてその問題に対して社会学は、現在有効な解決手段を 提示することができないでいる4）。 　では社会学は、この帰結を受け入れた上で、〈近代の自己認識の学〉としての自己理解を放 棄するべきなのであろうか。あるいはそのことによって、文学作品と区別のつかない、単なる 世界開示的な社会記述へと縮退せざるをえないのであろうか。社会学の成立史をひも解いてみ ると、社会学は当初より自己理解の前提を常に、〈社会哲学〉と呼ばれる一連の実践哲学の領 域に依存してきた。つまり社会哲学は、歴史的に社会学に対して規範的なモチーフを補充した り、あるいは時代診断的な解釈の枠組みを供与したりする役割を、果たしてきた。とするなら ば、現在の社会哲学の問題関心とその課題を改めて確認するということを、〈社会学の危機〉 を克服する可能性を探るにあたって、必要不可欠な作業であるとみなすことには、十分な根拠 があると言えよう。 　このような問題意識のもとに本稿では、A．ホネットの社会哲学に関する考察を概観してゆ く。ホネットは、アドルノやハーバーマスに続いて批判的な社会理論を試みる、フランクフル ト学派第三世代の旗手である。ホネットは現在、批判理論を〈承認をめぐる闘争〉という思考 モデルから展開しつつある（Honneth　1992）。〈相互承認〉というヘーゲル的な視座から見た 場合、果たして現代