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モンドラゴン協同組合企業体――アリスメンディアリエタの思想を中心に―― 2002.3 山本晋司 目次 はじめに １．モンドラゴン協同組合グループの特徴 ２．モンドラゴンの背景 ３．アリスメンディアリエタの創設思想 （１）協同組合地域社会の建設 （２）教育と労働と人間の尊厳 おわりに 注 参考文献 はじめに 労働者協同組合または工業生産協同組合がユートピアかどうかという考えは、ある意味 では時代遅れの議論である。その考えは現在崩壊した「社会主義体制」が成立する以前に なされていた「社会主義」を目指す立場からの議論を基礎にしている。もはや「社会主義 制度」そのものが逆ユートピアの烙印を押されている（１）。この中で労働者協同組合の経済 制度は、労働者の自己管理と参加を、現存の資本主義体制の中で、資本主義企業と競合し、 またはそれに対する代案として提示できるきわめて有効な経済制度として具体的に存在し ているのであり、その最大の成功例がスペインのモンドラゴン協同組合グループである。 スペインの北東、バスク地方一帯に展開するモンドラゴン協同組合グループの実験は、 歴史の彼方に一度は埋もれたかにみえる協同と協同生産の現代的な結合の一つの可能性を、 われわれに示しているとは言えないだろうか。このモンドラゴンの実験は、経済的偉業で あることを別にしてもなお、魅力的な社会的実験であり、モンドラゴン協同組合複合体全 体が労働者と顧客によって所有されている。さらに、コミュニティに対する責任という最 も重要な利他的意識がそのシステム全体に行き渡っており、今日のように支配的な社会経 済システムに幻滅を感じているこの時代に、西ヨーロッパ世界における社会改革を目指し ている人々にとって、モンドラゴンの偉業は大いなる魅力を持っている（２）。 だが、モンドラゴンの人々の築こうとしたものが、それだけで自己完結した閉鎖的なユ 1 ートピアではなかったことにも注意する必要があるだろう。フランコ独裁体制に対抗して 生まれたモンドラゴンの運動は、その誕生の時から現在に至るまで、スペインは言うまで もなく世界資本主義の変動に絶えずさらされ、その荒波を潜り続けてこなければならなか った。だが、1980 年代初期の景気後退を克服しスペインのヨーロッパ共同市場への加入に 備えるという闘いを通じて、協同組合の指導者達は、在庫管理と生産計画のジャスト?イ ン?タイム制や日本で発達した品質管理の進んだ方法を取り入れ、適用することに努めて きた。モンドラゴン協同組合がますます国際的志向を強めて行くに従って、その月刊誌『労 働と団結』は、日本の文化や組織の行動について解釈する記事を数多く載せるようになっ た（３）。 そして、このモンドラゴン協同組合群の創始と発展に大きく貢献したのが、ドン＝ホセ ＝マリア＝アリスメンディアリエタというカトリックの神父である。スペインの内戦期に 反フランコ陣営で戦い、逮捕された彼は、釈放後、神学校で学び、1941 年、26 歳でモンド ラゴンの教会の副司祭に任命された。 当時、人口約 8000 人のモンドラゴンは、貧しい町であり、とりわけ内戦終結直後という ことも手伝って、町全体が荒廃した状況にあった。フランコの独裁下、自由な政治活動や 労働組合運動が認められない状況の中で、町作りの執念に燃えた若き神父がまず取り組ん だのは職業技術教育であった。地方自治体の援助も金融機関の援助も得られなかった彼は、 直接住民に訴えかけ、わずかな資金を集め、1943 年に小さな職業訓練学校を開設した。当 時の新入生は 20 人であったが、この学校で神父は、労働の尊厳性を強調し、労働者が主人 公になる企業経営とそれを基盤とする社会改革の重要性を説いた（４）。 そこで、私はこのモンドラゴン協同組合企業体について、創設者アリスメンディアリエ タの思想に基づきながらに論じるつもりだ。だがその前にこのモンドラゴンとは何かとい うことについて論じなければならない。 １．モンドラゴン協同組合グループの特徴 モンドラゴンというのは１つの町の名前であって、モンドラゴン協同組合という一つの 協同組合が存在するわけではない。モンドラゴンに発生した協同組合を中心として、バス ク地方全域に活動する各種の協同組合がいわば一つのコンプレックスのような複合体的な 連合をしているということで、総称してモンドラゴン協同組合と呼ばれているわけである。 モンドラゴン協同組合の特徴は、何よりもアリスメンディアリエタがモンドラゴンの町 にやってきて始めに力を入れた教育である。まず彼は、1943 年に技術専門学校を設立した。 そ