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Title ヤスパースの人間学的哲学への歩み―『哲学すること』 に基づく精神医学から実存哲学への自己啓蒙的展開( Abstract_要旨 ) Author(s) 桝井, 靖之 Citation Kyoto University (京都大学) Issue Date 2011-01-24 URL /2433/135388 Right Type Thesis or Dissertation Textversion none Kyoto University （続紙 １ ） 京都大学 博士（経済学） 氏名 桝井靖之 論文題目 ヤスパースの人間学的哲学への歩み ～『哲学すること』に基づく精神医学から実存哲学への自己啓蒙的展開～ （論文内容の要旨） 本論文は「実存主義への熱も冷め、ヤスパースへの注目がおさまった」現在にあっ て、精神医学から哲学へと学問的立場を推し進めたヤスパースの「研究者としての歩 み」を跡づけることによって、ヤスパースの学問的、思想的発展を正確に理解しよう とするものである。 論文は二部構成となっている。 第一部は「ヤスパースの『人間学的構想』に基づく精神哲学から実存哲学への歩 み」と題され、以下の3章が置かれている。 第1章「ヤスパースの思想的?学問的軌跡」、第2章「ヤスパースと人間学的構 想」、第3章「ヤスパースと同時代の哲学者たち」。 第1章ではヤスパースの人生が三期に区分され、法学から医学に転じてからの、医 学博士として精神医学を研究した前期、より広い視野からする人間存在解明の方法を 構築した中期、そして「包括者存在論」という概念にたどり着く後期である。それは 主著で言えば、『精神病理学原論』から大著『哲学』全3巻をへて、『理性と実存』 や『真理について』への歩みである。 第2章は精神医学から哲学へ転じた理由を掘り下げている。その理由は優れた精神 医学者であったが、気管支拡張症と二次的心不全という難病故に、ハイデルベルク大 学の精神科クリニックの臨床医を引受けることができなかったことにある。そのとき 『世界観の心理学』が評価されハイデルベルク大学哲学教授の道が開かれたのであっ た。第二に、ヤスパースにとっては「人間存在」とは何かを解明することこそ重要な 課題であって、そこに彼の人間学的構想があった。したがって、ヤスパースにとっ て、精神医学も心理学も人間存在の解明に寄与するものとして存在したのであって、 精神医学にとどまらなければならない理由はなかった。加えてハイデルベルク大学ク リニックでのニッスル、グレーレとの精神医学上での切磋琢磨もヤスパースの人間学 の発展に有益であった。 第3章は、ウェーバーや新カント派リッケルト、現象学のフッサール、シェーラー などとの関係を描写する。現象学を精神医学に導入していたヤスパースはフッサール の現象学を見物人の態度として批判し、またリッケルトの科学論を物理学的な科学論 であって哲学ではないと批判した。他方、ヤスパースはウェーバーの宗教社会学の中 心問題としての資本主義の成立問題を、人間の実存に注目するものとみた。すなわち 彼によれば、ウェーバーは実存哲学者であった。またハイデッガーの『存在と時間』 を不毛と見なし、それから衝撃を受けなかった。 第二部は「精神医学からの『自己啓蒙的展開』としてのヤスパース哲学」と題さ れ、以下の３章からなる。第１章「先行研究と自説から見た精神医学から哲学への自 己啓蒙的展開」、第２章「『人間学的構想』に基づく『哲学する哲学』としてのヤスパ ース哲学」、第３章「精神医学と哲学との相関的啓蒙的自己展開」。 第１章では、日本のヤスパース研究をかなり詳細に回顧して、一部の研究者は正し く理解しているものの、通説が『精神病理学原論』の彼の哲学にとっての重要な意義 を無視していることを批判する。そして著者は、人間存在の解明こそが彼の前期、中 期、後期を貫く重要なテーマであったことを強調している。 第２章では改めて「哲学」とは何か、「哲学すること」とは何かを問うている。著 者は既成の構築物として哲学をとらえるに留まらず、思索的営みとしての内的行為と して捉えることがより重要だとする。それはカントの見解でもあったし、ヤスパース も同様であった。 第３章では彼の「哲学する」ことを『精神病理学原論』の序文をテクストとして検 討している。ここではヤスパースが晩年まで改訂を続けた本書の各版を比較してい る。そして彼の「人間学的構想」は（１）「人間を全体として問題にする」ものであ ること、それは中期から後期にかけては「包括者」という概念に結晶すること―― 「単に