岡部栄信の思想と行動.pdfVIP

－ 2 － － 3 － 岡部栄信の思想と行動 ―岡部温故館の整備?充実を目指して― 702－003　岡部保信　指導教官　和泉清司 A　Study on the Thought and Action of Eisin Okabe ― With the Aim of Replenishing and Improving the Okabe Onkokan Museum ― Yasunobu OKABE はじめに 　現代の多くの人は、「岡部栄信ってどんな人？」と知らない人が多い。また、『群馬県人名辞典』 等にも掲載されておらず、『甘楽富岡農業協同組合百年史』の甘楽社関連箇所や『上信電鉄百年史』 などにも歴代の役員の任期一覧までで、どんな活動をした人物なのか具体的な事は全く述べられて いない。いくらか知っている人でも、役職としては丹生村村長や群馬県公安委員を務め、大正時代 に丹生電気株式会社を中心になり設立し農村開発を行い、戦後は石門心学の著書などを著し、没後 は富岡の大塩湖の「いしぶみの丘」に「得意淡然、失意泰然」という直筆の座右の銘が残されてい るというくらいの知識であると思う。しかし、実際には栄信の生き方には、思想的には石門心学ば かりではなく儒教や報徳思想などの考え方も十分入っていて、行動面でも単に丹生村長や県の公安 委員などといったことだけではなく、生前は様々な役職を引受け活動し、幅広い足跡を残していた。 本稿では、岡部栄信は儒教や報徳思想を心の拠り所として、明治末から大正時代、昭和前期を生き たのではないだろうかという仮説を立て、この視点から論考を進めて行く。そして、最終的には富 岡市立岡部温故館の中心資料である岡部栄信の思想と行動を、群馬県の近代現代史の中でしっかり と位置づけ、富岡市立になっている岡部温故館をより充実整備してもらい、この館を富岡のまちづ くり、地域づくりの一つの核にして戴きたいということを研究目的とする。 『地域政策研究』（高崎経済大学地域政策学会）　第７巻　第４号　2005 年３月　３頁～ 11 頁 － 4 － － 5 － Ⅰ　岡部家と岡部栄信について （１）岡部家の紹介 　岡部家は、安政年間（1850 年代）から明治初期、北甘楽産の麻、南牧村砥沢の砥石を商い、倉 賀野河岸から江戸へ送り、江戸の問屋を始め三河、尾張、伊勢地方迄の販売網を持つ、西上州を代 表する在郷商人であった。栄信の祖父爲作の代には、生産会社（金融会社、製糸会社を経営し、金 融活動を通じて土地集積を進めた。田畑所有高は、幕末の元治 2 年（1865）４町歩余から明治 40 年代には 100 町歩を超える地主に成長し、以後、地主経営を維持拡大して、〔表１〕のように大正 期には大正 13 年 6 月農商務省農務局『50 町以上の大地主』より碓氷郡松井田町の吉田直太郎に 次ぐ群馬県内第２位の田畑の所有面積であり、〔表 2〕から岡部家資料より小作人約 500 人近くお り、小作米 1600 ～ 1700 俵、小作金１万 2000 ～ 1 万 3000 円が秋には岡部家に納められる状況 で、昭和 20 年代の農地解放時点には、田畑約 130 町歩を有する県内屈指の大地主であった。 〔表１〕　大正期の県内の百町歩地主 氏名 住所 所有耕地反別 小作人の戸数 田 畑 計 吉田直太郎 碓氷郡松井田町 ３７町６反 １１９町９反 １５７町６反 ３８７戸 本間千代吉 佐波郡赤掘村 ７４．７ ５５．９ １３０．６ ４３５戸 千金楽喜一郎 邑楽郡館林町 ５９．７ ４８．４ １０８．１ ４００戸 桜井伊兵衛 高崎市本町 ７９．５ ２３．６ １０３．１ ３２８戸 半田善四郎 碓氷郡原市町 ３９．１ ６２．６ １０１．７ ４５０戸 橋田銀四郎 邑楽郡館林町 ５８．７ ４１．５ １００．２ ３５０戸 岡部爲作 北甘楽郡丹生村 ３５．８ ４２．３ ７８．１ １２５戸 岡部栄信 同　上 １７．５ ３６．０ ５３．５ ９６戸 岡部家合計 ５３．３ ７８．３ １３１．６ ２２１戸 出典　 大正 13 年６月農商務省農務局『五十町歩以上の大地主』,『群馬事件の構造』236 頁 〔表２〕　岡部家の地主経営の規模 年度 小作人（指数） 小作金（指数） 小作米（指数） 大正元年（1912） 328（100）人 4,033（100）円 1,154（100）俵 大正７年（1918） 473（144）人 8,892（220）円 1,716（149）俵 大正８年（1919） 482（147）人 13,051（324）円 1,744（151）俵 大正 14 年（1925） 477（145）人 12,758（316）円 1,766（153）俵 出典