憧れ」の思想』に見る執行草舟の思想を読み解く.pdfVIP

マスロー心理学研究会 第68回定例会 2017.03.11. 発表 河野 憲一 〈自主発表〉 『「憧れ」の思想』に見る 執行草舟の思想を読み解く 執行草舟 『「憧れ」の思想』 PHP研究所 2017年 2月 より引用?参考 し ぎようそうしゆう Ｑ：生命とは何か。 Ｑ：人間は何を目指しているのか。 １．発表内容 抜 粋 １． 憧れには、人間の実存のすべてがある。人間とは、憧れのゆえに生き憧れのゆえに死する存在な のだ。憧れは、燃えさかる悲しみである。つまり、それは、我々人間が生きるための本源的躍動とい うことに他ならない。人間が生き、そして人間が死ぬ。それは憧れのもとに行われなければならない。 憧れのない生命は、人間の生命ではない。人間の尊厳とは、この憧れの中に存しているのだ。私は、 本書においてそれを語りたい。自分の生命にある生きた幸福と不幸を語りたいのだ。 (1頁) ２． ????我々の生命は、宇宙が創成されたときのエネルギーの「一片」なのだ。膨張する宇宙を 形成するエネルギーの奔流を受けて、我々は生きている。我々の生命エネルギーは、宇宙創成のエネ ルギーの分流と言える。だから、我々の生命は、その故郷を宇宙創成の彼方に持っているのだ。それ が、我々の生命を生命たらしめている本質と言えよう。それは、宇宙と生命の本源であり、「人間」の 実存の中枢である。 (20頁) ３． 現代科学の中に、ただ一つの絶対的真実と呼ばれているものがある。それが熱力学の第二法則と 呼ばれているものだ。それは、エントロピーの法則とも呼ばれ、この大宇宙を縛り上げる大法則とな っている。そのエントロピーの法則が示すところによれば、すべての物質は無秩序に向かうことを宿 命づけられていることに成るのだ。しかし、生命だけはこの法則に従わず、それ自身の秩序を維持発 展させることが出来る。シュレジンガーは、「生命は〈負〉のエントロピーを食べて生きている」と言 った。つまり、生物は宇宙の環境から「負のエントロピー」を摂取することで、エントロピーの法則、 つまり増大を相殺し、その崩壊を防いでいるのではないかと言うのである。この負のエントロピーが、 広義に捉えれば、生命エネルギーと呼ばれることになる。 (24頁) ４． 「しかし、君は飛ばなければならない」(英国の詩人、W?H?オーデン「見る前に飛べ」) 「百尺の竿頭に立ちて、すべからく歩を一歩進むべし」(禅、『無門関』第四十六則) それは、長い物干し竿の突端である百尺の竿頭まで辿り着いて、さてその次にどうするかを問うも のである。……「そこに座するのではなく、歩を一歩進めなければならない」と答えている。……つ まり、跳べと言っている。 私は、ここにへーゲルの言うアウフへーベンの苦悩を見出すのである。オーデンの絶叫も、ここに 存するのだろう。つまり、近代哲学においても禅においても、「死の跳躍」を志向することが生命のあ ～～ マスロー心理学研究会 ６８回資料 河野氏 p.１ ～～ るべき姿と考えられていたと言うことが出来るのではないか。垂直を仰ぐ生き方とは、絶えず「死の 跳躍」を覚悟して生きることに尽きる。それが、「憧れ」に向かって生きるということなのだ。だから、 憧れをたぐり寄せるには勇気が必要となる。生命が真に燃え尽きるためには、「死」をも厭わぬ生き方 の必要性を理解しなければならない。「憧れ」とは、命がけで手に入れるものと言えよう。 (27頁) ５． 垂直の生き方を貫徹するためには、自分がともしびから放射されるものと直接結びついているこ とを実感する必要がある。……自分の生命の淵源を、遠い宇宙の彼方に感ずることが大切なのである。 宇宙を創っている力が、自分の生命を生かしている力と成っている。我々は、宇宙の中心と直結して おり、宇宙の申し子なのだ。我々を生かしているのは宇宙の力であり、我々の中に宇宙が存在してい る。それを実感する。その垂直を見上げる姿勢が、自分の中に憧れを育てる。それによって、自己の 魂の故郷が自己の存在の故郷となるのだ。 (30頁) 憧れは、人間が精神を有する生命体である限り、宿命的に発生する欲求なのだ。人間が人間である 限り、精神が肉体を凌駕しなければならない。憧れが、命よりも大切でなければならない。それは、 現世的に言えば愛するもののために死することを意味している。自己の肉体よりも大切な「何ものか」 のために自己の生命を捧げる。それだけが、自己の生命の真の跳躍を生み出すのだと知らなければな らない。私は、そのような思想を、「憧れの思想」と言っているのだ。 (30～31頁) ６． 生命は逆説の形而上学である。死を想えば、生が輝いてくるのではないか。生にしがみつけば、 人生は死ぬ。幸福は不幸を生み、