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日本の長寿企業から見た経営理念と社会的責任に関する一考察Astudy

― 51 ― 愛知淑徳大学論集―人間情報学部篇 第 6号  2016 年 3 月,pp. 51―61 原著 日本の長寿企業から見た経営理念と社会的責任に関する一考察 A study on management philosophy and corporate social responsibility in Japanese longevity companies 青 木   崇* Takashi AOKI 要  旨  経営理念とは経営者が企業運営についていだく信条?理念?経営観を指すといってよいであろう。それは経営哲学, 経営信条,経営思想,行動理念,指導原理などの名称で呼ばれている。経営者がリーダーシップを発揮することは経 営の方向性を決めるうえで極めて重要な役割である。経営者が経営理念を構成員に浸透させるためにはプロフェッショ ナリズムに裏打ちされたリーダーシップの涵養とそれを企業内で発揮するための環境が不可欠である。企業の社会的 責任(corporate social responsibility)活動の原点は創業以来の経営理念を時代に適応し,新たな価値観として経営理 念を策定し,それに基づいて自社のあるべき姿を構想していること,確固たる経営理念に基づく価値観から経営ビジョ ンや中長期経営計画を決めていることである。創業以来の経営理念が経営者と従業員の共通の価値観となり,対話と コミュニケーションを繰り返し,確固たる経営理念を実践していることが特徴である。 キーワード: 長寿企業,経営理念,経営哲学,企業の社会的責任,CSR,持続可能な発展,経営者 1 .はじめに  日本企業の中には長寿企業といわれる企業が数多く存在している。帝国データバンク史料館(2008)によれ ば,1912 年までに創業した企業(宗教法人や社団,財団その他の公益法人等を除いて)は 24234 社に上って いる1)。1912 年までに創業した企業(宗教法人や社団,財団その他の公益法人等を除いて)は 24234 社に上っ ている。24234 社の業種別をみてみると小売業(7021 社,構成比 29.0%)が最も多く,製造業(6181 社,同 25.5%),卸売業(6034 社,同 24.9%)の順となっており,全体の 79.4%を占めている。業種分類では清酒製 造(784 社),旅館(646 社),菓子製造販売(514 社)が上位を占め,老舗といわれる企業が名を連ねている。  長寿企業の多くが創業以来の経営理念(企業理念)を掲げ,共通の価値観あるいは経営方針として,これま で経営を行ってきた。すべての長寿企業が経営理念を明文化しているわけではないが,口伝を含めて長寿企業 に共通して見られるのは良質廉価,身の丈にあった経営を行ってきていることである。そのような経営には創 業者の経営理念,経営哲学といった教え,教訓,家訓が経営指針となり,価値観の醸成,精神面での支柱と なったからこそ今日まで存在しているのである。  近年,企業の社会的責任(corporate social responsibility)は CSRとして,新聞をはじめ,企業での日常用 * 愛知淑徳大学キャリアセンター aotaka@asu.aasa.ac.jp ― 52 ― 愛知淑徳大学論集―人間情報学部篇 第 6号 語として広まり,企業の戦略的事業として取り組まれている。1990 年代は環境経営が注目され,企業(特に 大会社)はこぞって環境報告書を発行してきた。それが次第に 2003 年を機に環境報告書から名称を変えて CSR報告書またはサステナビリティ報告書として発行してきた。環境省によれば,CSR を含む環境報告書を 公表する日本企業は 1000 社を超えている。こうした背景には従来の環境経営に加えて,経済,環境,社会と いった枠組みで捉え,その中で経営を行う必要性が求められてきたからである。特に経済同友会は産業界のパ イオニアとして,CSRの考え方,概念,目的などを企業に向けて発信してきた経緯がある。  CSRは企業と社会の持続可能な発展を鍵概念とした経営を行っていくことが求められている。特定の部署 だけがCSRに取り掛かり,説明を行うのではなく,CSRを経営に組み込んだ事業として展開する必要がある。 しかしながら,CSRを将来への投資と考える経営者もいれば,コストと考える経営者もいる。経営者はCSR を経営として行っていくことが結果として企業価値2)の向上につながるという意識をもつことが必要である。  マイケル?ポーター(Porter, Michael E.)とマーク?クラマー(Kramer, Mark R.)は Harvard Business Review(2006 年 1

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