比較哲学の重要性と必要性.pdfVIP

比較哲学の重要性と必要性 ビジャン?アブドルカリミー 翻訳：武藤 伸司 導入のためのセッティング 井筒俊彦の重要性：東洋のメタ哲学 疑問の余地なく、井筒俊彦は、比較哲学は勿論のこと、イスラム研究の分 野において、最も有名な日本人の学者です。仏教とイスラム神秘主義の間の 比較研究は勿論、コーランやイスラム?スーフィズムについての彼の仕事は、 我々イランの学術団体も含め、イスラムや中東を研究領域とする世界中の研 究者や専門家によく知られています。 多くの人々が、井筒を歴史家、イスラム研究者、東洋学あるいは仏教学の 研究者として認識していますが、彼の比較的な、現象学的な研究は、哲学的 で歴史的な研究を超えて出ていて、哲学的な反省という点から見ても、頂点 に達するほどのものです。井筒は、東洋のメタ哲学 、、、、、、、 へと到達しようとする試 みによって、即ち、現代の理論的で精神的な危機への返答の手段として、異 なる東洋の宗教、神秘的な伝統の基礎を成している共通で単一の枠組みの獲 得によって、「現代の日本人哲学者」のランクを上り詰めました。井筒が通っ たルートは、彼の同僚であり友人である、著名なフランスの東洋学研究者ア ンリ?コルバンが通過した道と非常によく似ています。 しかしながら、以下のような疑問が浮かびます。それは、比較研究一般に おいて、そしてコルバンの思想、ないし、とりわけ井筒の術語である「東洋 のメタ哲学」における「比較哲学」というプロジェクトにおいて、必要性と 90 共生の哲学に向けて――イスラームとの対話―― いうものは存在するのか？というものです。そのような比較研究は、科学や 学問のアスペクト以上に、我々の生活にとって有益であるのでしょうか？そ のような東洋学の分野における研究は、我々の社会ないし文明において、東 洋学の研究者や支持者の好奇心以上に、どんな役割を果たすというのでしょ うか？一体何が、そのような歴史的で考古学的な研究と、我々の深刻で切迫 した問題との間に本質的な関係を結ぶのでしょうか？ しかし、問題の核心は、コルバンや井筒のような研究者の学究的な業績が、 東洋学やイスラム研究ないし仏教研究の分野においてのみ、関係付けられる のではなく、むしろそれらの業績が、哲学的な研究として考えられる、とい うことです。コルバンや井筒が進んだ道は、最早、歴史的で学問的ないし東 洋学的な研究の道ではなく、むしろ、思想に富んだ哲学的な研究の道だった のです。 しかしながら、そのことは以下のような疑問を持たれることになるでしょ う。つまり、どのようにして、仏教やイスラム教、そして東洋のスーフィズ ム、神秘主義についての歴史的で東洋学的な研究が、哲学的な熟慮として考 えることが出来るのか？と。 この疑問に対する答えは、率直には以下のものです。コルバンや井筒にと っての東方や東洋の宗教、そして神秘主義の重要性とは、単に彼らの東洋学 的な動機付けだけでなく、哲学者としての彼らが、我々の時代において既に すっかりと忘れ去られてしまっている古代世界へと戻ろうとしているところ にあります。別の点から言えば、古い宗教や理論的な伝統についての比較研 究の重要性や必要性を価値付けることへの疑問に対する答えというは、現在 の世界に我々が満足するかしないかの度合いを基本にしているということな のです。ニコライ?マキャベリは、近代的な政治哲学を確立する努力と同じ くらい、古典的な政治哲学についての批評を、倫理や政治の分野においてで はありますが、新大陸を探検したと主張した際のクリストファー?コロンブ スのような男の成功や発見と比較しています。彼は全くもって正しいのです。 先の歴史的な伝統の世界との比較において、近代的な世界は、全面的に新た な世界です。しかし、この新大陸は、人間の生活にとって相応しい地域であ るのだろうか？という疑問もあります。近代合理性に惹きつけられた人々は、 近代的な世界を、人が所有出来る最も可能な世界と考えています。オーギュ スト?コントの「進歩の原理」のもとで、彼らは、近代的な世界が「より進 歩した」ものであることは明らかであると信じており、そのため、以前の世 界よりもより善く、より望ましく、そしてより繁栄した世界であると信じて 91 比較哲学の重要性と必要性 比較哲学の重要性と必要性 いるのです。このような理屈において、より以前の世界への注意や、その世 界との何らか重要な結び付きの全ては、退歩や保守的な傾向のサインである とされてしまうのです。 しかし、現在の世界に意味も無く満足した人々とは反対に、むしろ、近代 性による発展が広く行き渡って