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11 西洋哲学と近代科学の成立 森田邦久（早稲田大学高等研究所） 2 古代自然学と近代科学 ソクラテス以前の古代ギリシヤ哲学者たちは「自然 学者」と呼ばれ，世界の成り立ちについて議論した． これは哲学の始まりであるとともに科学の始まりで もある． しかし，近代以降の自然科学と古代自然学とでは 大きな違いがあるように思える． 3 近代科学の特徴 機械論的世界観 実験の重視 数学的手法の重視 こういった近代科学に特徴的な思想は古代 自然学の伝統と隔絶したものなのだろうか？ 4 古代自然学の影響 「あるものはあり，あらぬものはあらぬ」 というパルメ ニデスの要請 ?保存量の概念／機械論的世界観へ 質的差異を量的差異に還元するミレトス学派や古代 原子論者の一元論的世界観 ?数学的手法の重視（機械論的世界観）へ 本質（イデア）の探究 ?実験やモデルを用いる理論的手法へ 5 ちょっと哲学史の復習１ 古代ギリシヤでは，地?水?風?火という四つの元素 から万物は成り立っていると考えられていた． だが，アナクシメネスは，万物は空気からできてい ると考えた． 空気が薄くなると火になり，濃くなると風となり，もっ と濃くなると水となり，さらに土（地）となるとした． 四大元素の「質の違い」を空気の濃淡という「量の 違い」で説明したのである． 6 ちょっと哲学史の復習２ アナクシメネスを含めたミレトス学派と呼ばれる人 たちは生成消滅変化を認めた． ところが，パルメニデスが「あるものはあり，あらぬ ものはあらぬ」と主張する．すなわち，本当に存在 するものは生成消滅変化をしないとした． 以降，このパルメニデスの要請を受け多元論的な 思想が生まれるが，パルメニデスの要請を満たし つつ一元論的な思想を推し進めたのが，デモクリト スの原子論であり，これは機械論的な世界観をも つものであった． 27 その後ソクラテス＝プラトンが現れるが，かれら の関心は自然学よりも「よい生きかたとはなに か」のような問題の方にあった． では，ソクラテス＝プラトンの思想は科学思想と は無関係なのか？ イデアの考えかたは次に説明するように，科学的 思考と密接な関係がある． ちょっと哲学史の復習３ 8 純粋化とはなにか ソクラテス＝プラトンは「本質（イデア）」を探求した． たとえば「徳とはなにか」について考える際に，具 体的な「奴隷の徳」「市民の徳」「貴族の徳」「女の 徳」などは（当時は）異なっていたが，そういった 「だれにとってか」という「不純物」を取り除き，共通 するものを取り出すことによって本質を探る． このような「純粋化」は科学においても重要な探求 方法である． 9 科学におけるモデル モデルとは，現実に存在するいくつかの要素を捨象 して現実を抽象化?理想化したもの たとえば，ニュートンがケプラーの発見した惑星の 運動の三法則を，運動の三法則と重力理論から導 き出すとき，二体モデルと呼ばれるモデルを用いた． 惑星の大きさ，色，形などを無視し，さらに，ほかの 惑星からの影響を無視して太陽と当該の惑星のみ の重力相互作用のみを考えている． 太陽 惑星 10 実験という思想 実験は，もちろん，理論の検証や反証（もしくはあ らたな事実の発見）のためにおこなわれるものであ るが，たんに「事実をありのまま」再現するもので はない． すなわち，調べたい現象に関係するものだけをい わば「自然から切り取って」再現するものである． これもまた「純粋化」の思想から生まれたもの． 11 応用編１：宗教と科学の違い 質の違いを質の違いで説明するvs質の違いを量の 違いで説明する （例）創造論的説明vs進化論的説明 創造論では，人間と猿の違いは神による創造され た時点で違う?質的に異なる． 進化論では，人間と猿の違いは遺伝情報にしかな い?量的な違い． 12 応用編２：疑似科学と科学の違い 主張されている仮説にたいする厳密な実験的検証 の欠如 つまり，たとえばある因果関係を主張しているとき， その因果関係だけが取り出されるような実験を設 計せずに，それが正しいと主張している 血液型性格診断，水からの伝言，多くの代替医療 313 まとめ１ 質的差異を量的差異で説明する． 「あるものはあり，あらぬものはあらぬ」 不純物を取り除き，いま探求しているものだけを 取り出すという方法（純粋化） 哲学と科学の共通点 哲学と科学の相違点 実験の重視 厳密な数学化 14 まとめ２ 相違点として挙げられたものも，共通思想が，科学 においては先鋭化したものではないか？ 実験の重視?自然そのものを観察するのではない． いわば「自然を拷問にかける」（フランシス?ベーコ ン）ものであり，この際，環境による実験系の擾乱 をなるべく避ける