第15章今昔物语集.pptVIP

第15章　今昔物語集 『日本文学史』高鹏飞 平山崇　著 編者 東大寺を中心とする僧侶たちが編者と考えられている。 成立 成立は1106年以後まもない頃。 それは、摂関政治が終わり院政が始まった頃。 一つの時代の終結と幕開けにおいて、かつての説話を振り返り、整理しようとする意識が編者に働いた。 それが『今昔物語集』編集の動機の　　　　 一つになっている。 巻数など 『今昔物語集』は全31巻、1040の説話を集めた現存最大の説話集。 8巻、18巻、21巻が欠けている。題目だけで文章がない説話が19ある。説話番号の付いていない説話、文の中の部分的な空白なども散見されることから、未編集のまま放置されたと考えられている。 内容 仏教説話と世俗説話に分かれる。 仏教説話-----仏教の成立、各国への伝来?流布の過程。霊験記。発心談。因縁談。 世俗説話-----多様な人間模様を描く。登場人物は天皇、貴族、僧侶、武士、庶民、盗賊など多岐に渡る。 物語は武士の合戦、盗賊、怪異譚など様々。 内容２ 『今昔物語集』の説話は独自に創作したのではなく、中国とインドの典拠を持っている。 文体?特徴 文章は漢字片仮名交じり文。 漢字は大きく、片仮名は小さく右に寄せて書いてある。 この漢字と仮名の混合した形式は後の『平家物語』などの和漢混交文の先駆となっている。 これまでの平安女流文学には見られない文学的特徴がある。 各説話は「今ハ昔」で始まり、「カク語リ伝ヘタルトヤ」で終わるという統一がなされている。『今昔物語集』の名前もこの「今ハ昔」に由来している。 引用???２９巻より※芥川の『羅生門』の題材 今は昔、摂津の国の辺りより盗みせむがために、京に上りける男（おのこ）の、日のいまだ暮れざりければ、羅城門の下に立ち隠れて立てりけるに、朱雀（すざく）の方に人しげく行きければ、人の静まるまでと思ひて、門の下に待ち立てりけるに、山城の方より人どものあまた来たる音のしければ、それに見えじと思ひて、門の上層（うわこし）に、やはらかきつき登りたりけるに、見れば火ほのかにともしたり。 　盗人（ぬすびと）、怪しと思ひて、連子（れんじ）よりのぞきければ、若き女の死にて臥したるあり。その枕上（まくらがみ）に火をともして、年いみじく老いたる嫗（おうな）の白髪白きが、その死人の枕上に居て、死人の髪をかなぐり抜き取るなりけり。 ※摂津の国……旧国名。現在の大阪府?兵庫県。 （要約：摂津国の辺りで、夕方、男が羅城門の下に隠れて、人通りがなくなるのを待っていた。盗みを働くつもりだった。しかし大勢の人がやって来たので、門の二階によじ登った。するとそこにはかすかな明かりがあり、老婆が若い女の死体から髪の毛を引き抜いていた。） 引用???第24巻紫式部の父藤原為時が漢詩の才能で出世した説話 今は昔、藤原為時といふ人ありき。一条院の御時に、式部丞（しきぶのじょう）の労によりて受領（ずりょう）にならむと申しけるに、除目（じもく）の時、闕国（けつこく）なきによりてなされざりけり。 　その後、このことを嘆きて、年を隔てて直物（なおしもの）行はれける日、為時、博士にはあらねども極めて文花（ぶんか）ある者にて、申文（もうしぶみ）を内侍（ないし）に付けて奉り上げてけり。その申文にこの句あり。 苦学寒夜。紅涙霑襟。除目後朝。蒼天在眼。 ＜中略＞然ればその申文を尋ね出だして、関白殿、天皇に御覧ぜしめ給ひけるに、この句あり。然れば関白殿、この句微妙に感ぜさせ給ひて、殿の御乳母子（おおんめのとご）にてありける藤原国盛といふ人のなるべかりける越前守（えちぜんのかみ）をやめて、にはかにこの為時をなむなされにける。 　これひとへに申文の句を感ぜらるる故なりとなむ、世に為時をけるとなむ語り伝へたるとや。 ※除目……諸官職を任命する朝廷の儀式。 ※関白殿……藤原道長を指す。 引用???第24巻の要約 （要約：藤原為時（ふじわらのためとき）は、一条天皇（980～1011）の時代に、受領の地位を望んだが、却下された。 翌年、為時は受領になるための申請書を天皇に差し出した。そこに次の漢詩を書き添えた。 苦学寒夜。紅涙霑襟。除目後朝。蒼天在眼。[前回は、酷寒の夜も勉学に励んでいたが受領になれず、悲嘆にくれて涙を流し袖を濡らした。今回の除目で私が受領に任命されたら、快晴のような天皇のために懸命に働く覚悟だ。] ＜中略＞この詩に天皇も藤原道長も感動した。そこで道長は、越前国の受領の地位を、約束していた藤原国盛に与えず、為時に与えた。世間は為時の文才を称賛した。） 『今昔物語集』の影響 中世に入り、説話文学の黄金時代を迎えたが、『今昔物語集』は中世から近世前期まで、人の目に触れられることはほとんどなかった。 1733