鎌 田 纪 彦.pdfVIP

高断熱木造住宅の技術 室蘭工業大学建設システム工学科教授 鎌　田　紀　彦 るが、外気温が低く、建物の断熱が効い して取り込まれたが、限定的であった。 １.はじめに ていないため、室温を上げないと寒く感 次世代省エネ基準には、北海道で開発さ 日本における、積雪寒冷地の民家の歴 じる。そこで、寒さを感じない程度に室 れた２つの高断熱・高気密住宅の仕様が 史を概観すると、雪への対処の工夫は 温を上げると逆に暑くなってしまうこと 取り込まれ、初めて将来の標準仕様とし 色々なものがみられるが、寒さへの対処 によるものである。一方、暖房室以外は、 て提示された。 工夫はあまり見かけない。ストーブ、暖 寝室やサニタリーはとても寒く、厳しい ３.繊維系断熱材による充填 炉のような暖房器具も日本では使われず、 環境である。こうした住宅の温熱性能を 断熱構法 いろり、こたつ、火鉢といった暖房とい 何とか改善すべく、海外視察や、実験住 うよりは採暖器具のみで、夜は一部屋に 宅の建設を精力的に進めていた。こうし 木造住宅においては、繊維系断熱材に 家族が身を寄せ合って寝て、寒さをしの た中から開発されたのが、一つは断熱材 よる断熱工法は、断熱材の導入当初から ぐといった生活であった。明治以降、北 メーカー系で開発された発泡プラス 中心的な構法であった。外壁の空洞部に 海道をはじめとして寒冷地では薪、石炭、 ティック断熱材による外張り断熱工法で 断熱材を充填する方法で、世界的にも一 コークスのストーブが使われはじめた。 あり、もう一つは、通気層工法と在来木 般的な構法である。しかし、木造構法自 日本の住宅は、欧米の住宅に比べて開放 造住宅の壁の上下端部に気流止めを設置 体が欧米の枠組み壁構法と、日本の在来 的な造りで、こうした暖房器具の効果は した繊維系断熱材による充填断熱改良工 木造では、その構成が根本的に異なって 十分ではなかったようである。時代が 法である。筆者は、後者の改良工法の開 いた。壁の空洞部の上下が日本では、床 下って、近年昭和30年代後半から簡便 発を中心となって行ってきた。昭和50 下や天井裏に解放された構成になってい な灯油ストーブが全国的に使われ始めた。 年代後半のことである。当時の北海道で るのに対して、欧米の構法では枠組みに 寒冷地でも煙突式の大型灯油ストーブに は、石油危機によって、とても厚い断熱 よって密閉されているのである。ここに 変わり始め、昭和40年代の高度成長と 材を施工するのが当たり前になっていた。 断熱材を充填すると、日本の構法では、 ともに、北海道では灯油温水ボイラーに 床と天井は200mm、壁は100mm、窓には 空隙の空気が暖房によって暖められ、上 よる集中暖房も普及し始めた。同時に住 ペアガラスの樹脂サッシが標準で、それ 昇気流が生じ、床下の冷たい空気や、室 宅には断熱材も導入されはじめ寒冷地の でも室内は前述のような状況で、暖房に 内の多量に水蒸気を含んだ空気が隙間か 住宅は大きく変わり始めた。この動きを、 使われる灯油は、一冬で1500～2000リッ ら吸い込まれ、断熱材の性能が発揮され 昭和48年の石油危機はさらに加速した トルにもなっていた。これが、改良工法 ないばかりか、多量の結露を生じ急激な といえよう。断熱材は全国に普及し始め、 の住宅では、断熱仕