8 放生会と持統上皇の行幸 - 静岡県立中央図書館 ホーム.PDF

8 放生会と持統上皇の行幸 ～律令国家成立期の遠江～ １　伊場木簡が語る放生会 い ば たいほうりつりょう たいほう 　浜松市の伊場遺跡からは、大宝律令が完成した701 （大宝元） 年以前にあたる７世紀後半の年 もっかん 紀が記された木簡がいくつか出土している。これらは律令国家成立期の地方政 × □ 廿 百 三 千 万 二 〉 ・ １ 料 ・ 史 〈   ） 年 年 三 統 丑 己 持 （ 治の実態を伝える数少ない文字資料である。 × 放 月 八 　〈史料１〉は伊場遺跡から出土した木簡であり、下部が欠けていたため、表 面の「己丑年八月放」の下、裏面の「二万千三百廿」の下のどちらの文字も明 らかではない。しかし、この木簡は「放」の文字から、捕らえた虫・魚・動物 ほうじょう え などの生き物を解き放って自由にする、仏教の慈悲の行為である放生会とい 　 代 古 ４ 編 料 資 』 史 県 岡 静 『 （ う儀式にかかわるものであったと推定されている。そして裏面の「二万千三百 廿」という数字は、放生会で放たれた生き物の数だとされる。我が国では、 に ほんしょ き てん む 『日本書紀』天武天皇５年（676）８月17日条に「諸国に詔して、放生せしむ」 じ とう 〈史料２〉 とあるのが放生の初見である。続いて の『日本書紀』持統天皇３年 せっ つ むこ の うみ き い あ て な き の （689）８月16日条には、摂津国の武庫海 （兵庫県）・紀伊国阿提郡那耆野 （和 い が む の 歌山県）・伊賀国伊賀郡身野 （三重県）を漁労を禁じる禁漁区とした記事がみえ、 957 ） 頁 放生会にかかわるものとされている。 　大宝律令以前の史料では年を表記するのに干支を用いることが多く、〈史料 １〉の木簡の表面に記された「己丑年八月」とは奇しくも持統天皇３年 〈 ふ ち ふち 史 ８月にあたる。つまりこの年、遠江国の敷智郡の前身にあたる渕評でも 料 ２ 放生会が行われ、正史である『日本書紀』の記事と合致するという興味 〉 深い事