『十二夜』におけるタイトルの象徴性 ―シェイクスピアの .PDF

『十二夜』におけるタイトルの象徴性 ―シェイクスピアの肯定的恋愛観と結婚観― 飯島昭典 1 「腫れた惚れたは女の特権」、「恋と野球は何をしても許される」、「忘れ た恋のはじめ方」など、恋愛の話題には事欠かない私たちであるが、４００年 前のウィリアム・シェイクスピア (William Shakespeare, 1564-1616)時 代にも我々と同じように、人々は恋に対して大変な関心を寄せていたというの は、紛れもない事実である。シェイクスピアの戯曲には恋に関して様々な言及 がなされている。幸せな結婚生活を送り、人生を全うしたシェイクスピアの恋 愛観の表れではないだろうか。 １ ここに取り上げる『十二夜』 (Twelfth Night, 1623) も恋愛を主軸にす えたプロット展開であり、女主人公ヴァイオラ (Viola)と公爵オーシーノ (Orsino)、そしてオリヴィア (Olivia)とセバスチャン (Sebathtian)の各 組の恋愛の成就という形でこの劇は幕を閉じる。恋愛という人々にとって馴染 み深い、そして普遍的なテーマを取り扱ったのがこの劇の人気を支えているの だろう。 本ペーパーで示そうとするのは、『十二夜』を通して見られるシェイクスピ アの恋愛観、あるいはそこから発展した形であるシェイクスピアの結婚観を論 じることである。この目的を果たすために作品のもっとも基本的要素であるタ イトルに注目してみたいと思う。「十二夜」というタイトルが示す意味とは一 体なんであるか、この問いに対して答えを出すことが出来れば、本ペーパーの 目的は十分に果たすことが出来るはずである。文学批評において作品の内容に 注目するのは、当然のことである。しかし、劇作家シェイクスピアがこの「十 二夜」というタイトルをつけた意味を考えてみることは、あまりにも当たり前 すぎてかえって盲点となってしまう要素の一つではないだろうか。「十二夜」 のタイトルが一体何を意味するのであろうか。この問いに答えるため、ここで はオーシーノの自己欺瞞、オリヴィアの自己欺瞞、ヴァイオラの自己欺瞞とい う三者の自己欺瞞に注目してみる事とする。 2 オーシーノの恋の苦しみとは大変なものである。しかし、オーシーノの恋と は真実の愛なのであろうか。彼は恋そのものに対して恋しているのであり、恋 という概念に囚われて苦しんでいる男なのではないだろうか。自分では意識す ることが出来ないが、恋をするという行動においてのみ、自分の意識を集中さ せてはいないだろうか。言い換えれば「恋をしている自分」を演じている自己 欺瞞の男なのではないだろうか。作品冒頭でオーシーノは楽師たちに向かい次 のように命じる。 If music be the food of love, play on, Give me excess of it, that, surfeiting, The appetite may sicken, and so die. (5) 音楽が恋の糧なら、続けてくれ。 度が過ぎれば、飽きが来る。 恋の食欲も病み衰え、やがては消える。 ここで注目しなければならないのは、音楽と食欲、そして恋が同一線上に論 じられている事である。いうまでもなく音楽とは聴覚に訴えるものであり、食 欲とは味覚に訴えるものである。いうなれば、人間の身体感覚に訴えるもので あり、精神性レベルでの議論ではないのである。恋愛とは精神性に基づくもの であり、けっして身体感覚に訴えるものではない。精神性の調和 こそ恋愛の支 柱 であり、身体感覚はその二次的意味でしかないのである。この冒頭の引用箇 所 において、オーシーノの恋の疑念というのは既 に暗示されているのである。 このほかにも自らの恋心を例 える第二幕で「私の愛は海 のように飢 えている」 ( “mine is all as hungry as the sea ” )(37) と述べ る一方、「