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海外論文紹介 Havens in a stormを読む──「有害な税の競争」 をめぐる言説の競争 東京大学法学部教授 増井良啓 　　 はしがき　　本稿は，平成21年 8 月 3 日開 1 マンチックな ）読み取りも可能である。 催の国際課税研究会における，東京大学法学部 　本書は，国際関係論の角度から，タックス・ 教授 増井良啓氏による「Havens in a storm ヘイブンに対するグローバルな規制がいかに試 を読む──『有害な税の競争』をめぐる言説の みられたかを説明しようとする研究である。対 競争」と題する講演内容を取りまとめたもので 象とする時期は，OECD で「有害な税の競争」 ある。 に対抗する運動がはじまった1996年ごろから， 2001年初夏以降の方針転換を経て，租税情報交 税 課 際 国 　 ● はじめに 換条約（Tax Information Exchange Agreement, TIEA）が増加していく2003年ごろまでである。 本書によると，この時期には，タックス・ヘイ 　今回は，J. C. Sharman, Havens in a storm: ブンと名指しされた小国が OECD 加盟国の攻 the struggle for global tax regulation（Cornell 勢に抵抗し，規制の試みが実質的に骨抜きにさ University Press, 2006）をとりあげる（以下 れた。本書はこれをタックス・ヘイブン側の 「本書」という）。本書の題名を直訳すると， 「勝利」とみて，その要因が評判に訴えかける 「嵐の中のヘイブン：グローバル租税規制のた レトリックを効果的に駆使したことにあると論 めの戦い」となろう。Havens という言葉は， じている。いわば，「有害な税の競争（harmful タックス・ヘイブンという意味にもとれるし， tax competition）」 を め ぐ る 言 説 の 競 争 避難地という意味にもとれる。ゆえに，「嵐の (rhetorical contest) に勝ったという見立てであ 中のヘイブン」という題名からは，「有害な税 る。 の競争」をめぐって国際社会の暴風雨にさらさ 　本書の著者は刊行当時シドニー大学在籍の政 れたタックス・ヘイブンをイメージすることも 治学者である。膨大な公表文書を渉猟し，数々 できようし，カリブ海に浮かぶ小さな島々が嵐 のインタビュー調査をもとに，本書を執筆した。 の中で船舶の避難地になるという（いささかロ 聞き取りの相手は，OECD や産業先進国の課 1 　本書の扉には，Andrew Marvell (1621-78) 作の“Bermudas”という英詩が付されている。後述するように本書 の分析手法は文化や規範，修辞を重視するものであって，題名にレトリックの仕掛けが含まれていると想定するこ とには，十分な