中国の「走出去」政策と中国企业の対外直接投资.pdf

中国の「走出去」政策と中国企業の対外直接投資 ―技術獲得の視点から 龍谷大学経済学研究科博士後期課程 姜 紅祥 はじめに 中国は 1970 年代末から始まった「改革・開放」の下で、外国直接投資の誘致や対外貿 易の拡大を推進してきた。周知のように、二つの柱によって中国経済は高成長を長年にわ たり維持し、外資導入や対外貿易の面でおいて世界上位の大国となった。1990 年代後半か ら、企業実力の強化、世界経済と関連の深化、外貨不足により経済発展への制約の解消な どに伴って、海外に進出し世界範囲で更なる発展を図る企業は増えてきた。特に 2001 年 の WTO （世界貿易機関）加盟を経てこの勢いは一段強まっている。このような状況の変 化に基づいて中国政府は企業の対外直接投資に対して従来の厳しい規制を一転して支援す る姿勢に変わり、さらに「走出去（海外進出）」政策を打ち出し、国家戦略として位置付け ている。この「走出去」政策に基づいて企業の対外直接投資を中心として様々な面で支援 策も講じられている。すなわち、従来の外資導入と対外貿易に加え、対外直接投資やそれ に基づく国際経営をもう一つの柱として中国の 「改革・開放」は新たな段階に入っている。 「走出去」は中国語の表現で、海外進出という意味で、外資導入の「引進来」と対照的 に用いた言葉である。言葉の表現で見ると「走出去」は、外資導入に対して資本輸出の意 味で対外直接投資を指すが、後述するように実は幅広い分野が含まれる。少なくとも、「走 出去」の直接の支援対象が企業の対外直接投資であるため、その政策と投資の関連は本稿 の検討対象である。また、中国企業は技術面において従来の自主開発、外国技術導入に加 えて、対外直接投資による技術獲得を新たな技術発展のプロセスとして認識しており、「走 出去」政策にもこれを重点の一つとして推進されている。それゆえに本稿は「走出去」政 策と企業の対外直接投資の関係を考察する上で、技術の獲得を重点に置きたい。 「走出去」政策や中国企業の対外直接投資は比較的に新しい分野であるため、従来、そ れに関する研究は数少ないが、この 3－4 年間に日中の学界、さらに世界中では中国の対 外直接投資に注目を集め、その関連研究の成果が多く出されている。しかし技術獲得の視 点で「走出去」政策や企業の対外直接投資に対する研究実績が少なく、必ずしも十分に行 われたとは言えない。 例えば、中国企業の国際化をまとめた成果として、大橋（2003）、加藤・上原（2004）、 1 中国国務院発展中心（2006）などの研究がある。「走出去」政策や中国企業の対外直接投 資の実態をまとめた研究として肖勤福（2004）、鄧洪波（2004）、王志楽（2004）、王玉梁 （2005）、小島（2005）、朱（2006）、天野・大木（2007）、劉慧芳（2007）、高橋（2008）、 片岡（2008）などが見られる。中国企業の対外直接投資に関する実証研究として程恵芳 （2004）、項本武（2005）の研究成果が出されている。技術獲得に関する研究は数少ない が、冼国明・楊鋭（1998）、安同良（2003）、陳小文（2007）の研究が見られる。 これらの先行研究の中に、大橋（2003）、加藤・上原（2004）、国務院発展中心（2006） は中国経済の国際展開と中国企業の国際化戦略をまとめた。肖（2004）は各業界の海外進 出動向をまとめた。鄧（2004）は WTO 規則に着目して各産業の角度から企業の「走出去」 を検討した。王（2005）は「走出去」政策の提起経緯などを調べ、特に「国家安全」とい う新しい角度から「走出去」の必要性を検討した。程（2004）は中国企業の対外直接投資 に関する方式選択、立地選択、組織構成などを研究し、将来の投資動向を予測した。項 （2005）は中国企業の対外直接投資の決定要因を分析した。日本には最近、天野・大木 （2007）、高橋 （2008）のように多数の研究者の成果を集約的にまとめた出版物が出され、 代表的な投資事例を紹介した。また、片岡（2008）は論文の形で「走出去」政策の管理・ 奨励策を詳しく整理してきた。しかし、これらの先行研究は対外直接投資による技術の獲 得に余り触れていなかった。 技術獲得に関する先行研究として、冼国明・楊鋭（1998）は途上国の対