名誉館長館話実施報告抄-秋田県立博物館公式ホームページ.PDF

秋田県立博物館研究報告第41号　107〜114ページ　2016年３月 Ann. Rep. Akita Pref. Mus., No.41, 107-114, March 2016 名誉館長館話実施報告抄 新野　直吉* 秋田城の要務と水洗トイレ　蘇った『県民歌』とその作詞者　昌益からの『贈り物』と位置 づけられた教育者 はじめに なのである。 　 　同じく「えびす」と呼びながら、陸奥に「夷」 　平成 27 年度は、前期に５月 15 日（金）「秋田 を、出羽に「狄」を漢字としては当てているのは 城の要務と水洗トイレ」、６月 19 日（金）「払田 いわゆる「東夷西戎南蛮北狄」に由来する。陸奥 柵は雄勝城ならざるのこと」、７月 17 日（金）「安 は東山道の延長上にあると位置づけられたのに対 藤昌益は秋田県北人」、真夏を挟んで後期に、９ し出羽は北陸道の延長上に位置するとされたので 月 11 日（金）「蘇った『県民歌』とその作詞者」、 ある。現在の表日本裏日本なる意識からすれば、 10 月９日（金）「昌益からの『贈り物』と位置づ 太平洋側の陸奥が表で、日本海側の出羽は裏の如 けられた教育者」、11 月 13 日（金）「『牡鹿の嶋風』 くに扱われそうであるが、アメリカ大陸が知られ、 『阿久呂王』によせて」の６回を試みた。 太平洋も大西洋も汽船の航海対象になる以前は、 ここでは 3 回分を、文章化して報告する。 江戸時代の「北前船」に表徴を見るように、日本 海対馬海流依存の舟や船のメイン航路だったので 秋田城の要務と水洗トイレ ある。 　秋田地方のことが国家史の上に主体たる対象と 　寺内高清水の古代秋田城の役割は、古代東北に なった史料は、国家の官撰史書『日本書紀』の斉 おける蝦夷（えみし）の征討や制圧を要務とする 明朝の史実として記録され伝わっている。著明な ものと位置づけられて来たと言ってよい。自分も 最初は斉明天皇四年（658）の阿倍比羅夫北航の 秋田に赴任した当時からそのように受けとめてい 記述である。 た。だが、昭和 34 年（1959）から 37 年に及ぶ国 　最近の刊行である『蝦夷と城柵の時代』（吉川 営発掘調査などを目の当たりにした段階から、こ 弘文館）の「一城柵の設置と新たな蝦夷支配」（永 の官衙は「武」を本性とするよりは、「文」的な 田英明氏著述担当）でも明確に執り上げられてい 任務を主としている存在であると考えるように るが、最初の年に行われたことが「齶田蝦夷の恩 なった。 荷に冠位を授け、渟代・津軽二郡の〈郡領〉を定 　８世紀は勿論、９世紀になってまで「征夷大将 め」、「渡嶋の蝦夷」にも「有間浜」で饗応したこ 軍」など派遣されていたのは陸奥国側であって、 となどである。 出羽の秋田側には、養老４年（720）陸奥に多治 　平安朝初期まで陸奥の蝦夷が武力で抗し征夷軍 比県守を持節征夷将軍として派遣の時も、持節鎮 が派遣されるような状況があったので、水軍の提 狄将軍阿倍駿河の派遣であったし、宝亀11年（780） 督でもあった越国（高志国）の長官だった比羅夫 の伊治呰麻