早瀬敏幸.PDF

* 大動脈瘤内血流の超音波計測融合シミュレーション ** 早 瀬 敏 幸 キーワード ：医療診断装置，計測，シミュレーション，計測融合シミュレーション れの数値シミュレーション結果と実現象の流れの 1. はじめに 計測結果との差異に比例したフィードバック信号 流れは，呼吸や血流など生命の維持，産業活動， を流れの数値シミュレーションに加えることによ 気象など地球規模の現象等，幅広い分野に横断的に り，計算結果を実現象に収束させるものである（図 関わっている．特に循環器系疾患の緊急時には，実 １参照）．本手法は，これまで種々の流れ場に応用 際の流れの正確な状態をできる限り速やかに知る (7)-(9) され，その有効性が示されている ． 必要がある． さて，動脈瘤のような重篤な循環器系疾患の正確 計測は，実現象の状態を知る最も直接的な方法で な診療法を確立するためには，血管内の圧力分布や あるが，時間的・空間的に広がりをもつ流れの状態 壁せん断応力などの詳細な情報を得ることが不可 を完全に把握することは困難である．一方，近年の 欠である．様々な画像診断法のうち，超音波を用い 計算機性能の向上により，数値シミュレーションに たカラードプラ法は，生理的状態における血管断面 よって複雑な流れ場の解析が可能となったが，流れ 形状と血流動態を，非侵襲かつリアルタイムに表示 の実現象を再現するために必要な，正確な初期値や できるが，3 次元性の強い血流に対し，ドプラ速度 境界条件を与えることは困難である． (速度の超音波ビーム方向の成分) しか計測できない このように，計測や数値シミュレーション単独で という短所を持つ．一方，MRI や CT から得た血管 は，実現象の流れ場を正確に再現することは難しい の実形状を用いる数値シミュレーションにより，血 （表１参照）．そのため，両手法の融合により解決 管内の詳細な血流構造が得られるが(10)，モデリング しようとする研究が様々な分野で行われている．代 の精度や，境界条件の設定に本質的な問題を有して 表的なものとして，気象の数値予測に用いられる 4 おり，通常，得られた血流構造は実際の血流と必ず 次元同化法(1)，同様な考えを工学の問題に応用した しも完全には一致しない． ICEME 手法 (2) ，逆問題解析に用いられるティホノ これらの問題点の解決策として，著者らの研究グ フ正則化手法 (3)，流れの画像速度計測における融合 ループは東北大学加齢医学研究所と共同で，超音波 化手法(4) などがある．また，制御の分野におけるオ 診断装置による血流計測とコンピュータによる血 ブザーバやその一種であるカルマンフィルタを流 流数値シミュレーションを融合した，超音波計測融 れ場の再現に応用する研究もなされている(5)．著者 合シミ