岩石矿物矿床学-J-STAGEJournals.PDF

岩石礦物礦床學 第 八 巻 第 六 號 昭和七年十二月一日 研 究 報 文 本邦産藍閃片岩類に關する二三の新事實に就いて 理學博士　鈴 木 醇 (A) 神流川筋柏木附近産藍閃片岩礫 (B) 神居古潭に於ける藍閃片岩類の産状 (C) 雨龍上川方面各地の藍閃片岩類の新産地 (D) 小平蘂川産藍閃片岩礫の本源 (A) 神流川筋柏木附近産藍閃片岩礫 武藏,上野兩國境附近を流るゝ神流川中に堆積せる結晶片岩,鹽基性火成 岩,輝緑凝灰岩その他の轉石中に往々興味ある岩石の發見せらるる事は注 意すべき車にして,萬場町の東々北なる柏木附近より得たる角礫質輝緑凝 灰岩塊中に含エヂリン輝石チタン輝石粗粒玄武岩の岩片の存在せし事に就 きては,先に筆者1)の報告したる所なり。其後同地方より蒐集したる各種の 岩礫を調査中,粕木並びに扇谷附近より得たる轉石中に極めて標式的なる 藍閃片岩の存在を知るを得たり。 1) 鈴木醇,本誌,第7巻,第5號,(昭 和7年)PP.205～212. 本184(2) 岩 石 礦 物 礦 床 學 總238 同岩石は直径2m.以 上にも及ぶ大なる岩塊として發見せられしものにし て,外見濃藍色を呈し且片状著しく,その片理面に沿ひては藍閃片岩の特性 とも見るべき繊細なる小皺を示せるものなり。顯微鏡下に於いて検するに 本岩は藍閃石,緑簾石,絹雲母等を主成分とし部分的に緑泥石,石英,磁鐵礦 等を含有せるものにして,その成分又は構造は,四國に廣く發達せる三波川 系の一員たる所謂別子統中の藍閃片岩の或るものに酷似せり。 本岩塊の發見せられたる場所はいつれも秩父系に属する輝緑凝灰岩又は 珪質岩の發達せる區域なれども,これ等藍閃片岩塊が何處より轉じ來れる ものなるか未だ審かならざるなり。唯同地方の地質圖1)を見るに,同地上流 には秩父系或はそれより若き地層の發達を見るのみなれば,本岩塊は少く とも三波川系又は御荷鉾系に属する岩石に非ざる事明かにして,その岩質 より推察すれば,恐らく柏木以西に廣く分布せる輝緑凝灰岩の一部と密接 なる關係を有するものと信ぜらる。 本邦に於いて藍閃石を含有せる岩石は三波川系及び御荷鉾系中に發達す る事多きも從來知られたる秩父系に属する岩石中に在りては,その例極め て稀にして,筆者の知る範圍に於いては,古 く小藤教授2)に據つて報ぜられた る土佐國國見山附近赤谷の輝緑凝灰岩及び上野國甘樂郡中窪の角閃岩中の 異剥石の周邊の一部が藍閃石化せるもの等なり。今秩父系に属する標式的 岩石の發達する區域より純然たる藍閃石を主成分とせる結晶片岩塊の發見 せられたる事は本邦に於ける最初の例なるべく,又本岩を前述の如く,秩父 系の輝緑凝灰岩と深き關係を有するものとの假定をゆるすならば,我秩父 系に於いても相當著しき變質作用を蒙りし部分あるを推測す るに足るべ し。但し本岩が極めて廣汎な範圍に行はれし一般變質作用に據りしものな 君 1) 藤本 治 義,地 學雜 誌,第36巻,第326號(大 正13年) 2) B. Koto, Jour, Coll. Sci. Tokyo Imp. Univ. Vol. 1 . (1887). p. 90～92. 總239 研 究 報 文 本185(3) るか或は鹽 基性火成岩の噴出に關係せる局部的の接觸變質作用に據りしも のなるかに就いては此後同岩の産出状態の探究に俟つべきなり。 (B)　神