大阪政调査会.DOC

「自治体セーフティネット研究会」議事録（文責?大阪市政調査会） 第９回研究会（２００８年２月４日） テーマ： 「人物?エピソードに見る大阪における社会事業の歴史」 報告者：　山口　勝己（大阪市職員労働組合） 【報告要旨】 はじめに 『市政研究』no.158で紹介した大阪社会福祉史研究会編『大阪における社会福祉の歴史Ⅰ』から、興味深く感じた慈善事業家や社会事業家にまつわるエピソードを多少の補足とともに思いつくままに紹介したい。本書は大阪市社会福祉研修?情報センターで開催されている「社会福祉史の市民講座」の初期の講演をまとめたものである。社会福祉史の入門書として面白く、学生や福祉職の若人たちに推薦する。近代期大阪の事業家たちのユニークさに触れ、現代の課題を考えるための「コーヒーブレイク」となれば幸いである。 １．福祉パイオニアの群像 （１）池上雪枝の池上感化院 　幕末に近衛家で英才教育を受け勤皇活動にも参加した池上雪枝は、神道の布教所、大成教をつくり、そこでの易がよく当たって財を成した。彼女はその財で感化事業（非行少年の教護事業）を起こし、1883年に北区空心町の自宅に日本最初の感化院を開設した。一般教育とともに職業指導を重視し、彼らに洋傘の柄やステッキの製造、英人技師を招いて石鹸や硫化染料の製造など、ハイカラな技術を修得させ、確実に自立への道を歩ませた。また、保健衛生など地域社会の啓発のため「雪枝草子」を発行した。しかし、全て彼女の私財によるこれらの事業はわずか3年で行き詰まり、池上感化院は閉鎖された。 （２）小林佐兵衛の小林授産場 司馬遼太郎『俄』でその破天荒な生涯が描かれている侠客、小林佐兵衛が1886年に興した小林授産場は、色々な意味でとんでもない施設である。1873年頃から義侠心で困窮者を自宅に保護していたが、1883年に廃止された大阪府救助場の入所者を受け入れ、代わりに大阪府から市内の清掃業務を請負い、またマッチ工場を経営し、保護した老若男女に従事させた。しかし小林授産場の経営は前近代的であり、横山源之助『日本の下層社会』には、板間にござを敷いただけの蚤だらけのところに顔色の悪い子どもを収容するなど、処遇の悪さが記録されている。1903年の内国勧業博覧会の時には、外客への体面から警察に狩り集められた最底辺の人々の収容先となり、クリアランスの役割も担わされた。小林は授産場だけで私財10万円を使い果たし、晩年自ら困窮に陥り、1912年に弘済会に事業譲渡した。 （３）岩田民次郎の大阪養老院 日本で4番目、大阪で初めて養老院を設立した岩田民次郎は、商売にたいへんな苦労を重ねて、ようやく難波新地の貸座敷業に成功し資産を成した。太子信仰を持つ彼は救済事業への思いが深く、学習会に通って福祉を学び、1902年に留岡幸助の講演を聞いて養老事業への取り組みを決意した。ところが、府知事の高崎親章は慈善事業に無理解で養老院設立の申請をなかなか受理せず、そんなものを作れば近県から食い詰めた年寄りが集まってたいへんだと散々いやみを言われた末、一年後に許可が下りた。府は救恤金を出さず、岩田の家業から世間の風評も冷たかった。1906年の東北飢饉では、児童97人、老人20人を保護するが、原胤昭『全国慈善事業視察報告書』では、墓地火葬場に隣接する吹きさらしの建物で重病室もなく、果たして老人の慰安養老になるのかと、厳しい評価が下された。 （４）小林勝之助?実之助?林歌子の博愛社 医師を目指していた小林勝之助は心臓と腎臓を悪くして挫折し、イギリスの孤児の父、ジョージ?ミューラーの講演を聞いてキリスト教信仰に基づく慈善事業の確立を目指した。彼は1890年、兵庫県赤穂郡の瓜生の生家で親戚などの猛反対の中で博愛社を設立した。博愛文庫を開設するとともに石井十次の岡山孤児院から孤児を預かり養育した。1891年の濃尾大地震に際して、彼は石井とともに名古屋に震災孤児院を作り、帰郷後、新天地を求めて北海道を視察するが自然の過酷さに断念し、大阪への移転を思い描いた。しかし、負担が重なり病状が悪化し、1893年に30歳で死去した。 勝之助亡き後、弟の実之助と、キリスト教信仰を通じて知り合った勝之助から協力を依頼されていた林歌子が、博愛社の事業を引き継いだ。林は博愛社を大阪に移し、教師をしながら寄付を募り、1896年に十三元今里に土地を得て悲願の施設を建てた。愛隣夜学校の経営も引き受け、入所児童も増えた。彼女は実之助の結婚の世話をした後、渡米し、博愛社の事業を実之助夫妻に任せる。大阪の慈善事業界の重鎮にもなった実之助は、実直安定型の人物で、博愛社の精神的基盤の上に次々に土地と社寮を加えていった。林は博愛社のために多額の寄付金を抱えて帰国すると、日本キリスト教婦人矯風会の仕