多重双晶粒子.pdf

井 野 正 三 227 日本結 晶学会誌9,227(1967) 多 重 双 晶 粒 子 井 野 正 三* 真空蒸着膜 の電子回折像 には しば しば異常回折 斑点や回折環が現われ我 々を戸惑わせ ることが多 い.従来見 出されて来た異常反射は双晶構造や積 層不整等 の格子欠陥や二重回折等 の回折現象的な 考察 に より一通 りの説 明がつけ られて来た. 最近美浜達1)やAllpress達2)は金蒸着膜の初期 段階の電子回折像 に異常111回折斑点が現れ るこ とを見 出 した.こ れ らの回折斑点は興味ある様子 を していたが解析は案外めん どうなもの で あ っ た.井 野達3)4)5)は電子回折像や電子顕微鏡に よ る観察 の外に,暗視野法を駆使す ることに よ り詳 細 な観察を行 い“多重双晶粒子” と よば れ る複 雑 な構造を仮定すれば矛盾 な く説 明出来 ることを 明 らかに した.こ の粒子の構造は解析 された直後 には誠に奇妙 な構造に見えたが,注 意深 くこの構 造を調べてみ ると首肯 させ られ る点 もあ り,薄膜 のエ ピタクシー的成長機構を論ず る際には非常に 参考になると思われ る.又金属微粒子 としての結 晶構造 とい う点か らも興味ある新 しい問題を含ん でいる様である. 第2図NaCl,KCl等 の下地に成長す る微結 晶核 の方位 *東北大金研 9.3-57 228 多重双晶粒子 1.多重双晶粒子の構造 第1図 はNaCl上に蒸着 した厚 さ100ÅのAu膜 の電子回折像である.こ こに現われてい る微結晶 核 の9つ の方位 が第2図 に示 されている.4つ の200回折斑点は第2図(A)に示 され る(001)方位の結晶 か ら生ず る.24個の220回折斑点の うち強い方の12個は(B).(C),(D),(E)の方位 の結晶か ら生 じ,弱い 方 の12個 は(F),(G),(H),(I)の方位 の結晶か ら生ず る. 内側にかな り強 く出てい る24個 の111回折斑点が問題 の ものであ り,上述 の(A)から(1)までの方位で は もちろん,そ の外 の比較的低次の指数面が下地 に平行 になった ような方位 ではいずれを用いても うま く説明することが出来ない.第3図(a)は第1図 の回折像 を撮 ったAu膜 の電子顕微鏡写真であるが,(b) は第1図 の111回折斑点aを 用いて撮 った暗視野像 である.菱形状粒子A,五 角形状粒子B,六 角形状 粒子C等 の暗視野像はいかにも意味あ りそ うな コン トラス トで,そ の構造が単純 でないことを示 してい る. 井野達 の考えた多重双晶粒子模型は,実 際に観察 され る粒子の方位,構 造,外 形等に より以下述べ る 3つの模型A,B,Cよ り成 る.第4図 は結晶核 の方位 と3つの模型 との関係を図示 した ものである. (a)は(001)方位の核 で第2図(A)と同 じ方位の ものであるがその外形は立方体の二隅を(111)面OAB, OACで 切落 した ものであ り,これを(001)方位の核 とよぶ.こ の核の(111)面OAB,OACに(111) 面で囲まれた正 四面体の結 晶OABF,OACLを(b)に示す如 く重ね ると,これ らは核の結 晶に対 して双 第4図 微結晶核 と多重双晶粒子模型A,B,Cと の関係図. 9.3-58 井 野 正 三 229 晶の関係になっているのでこれ らを1次 の双晶 とよぶ.同 様に1次 の双晶の(111)面OAF,OALに 2次の双晶OAFE,OALDを 重ねた ものが(b)の模型Aと よばれ るものである.模型AをOAの 方向