中立に近い安定度の大気境界層における乱流構造の観測 －解析.pdf

京都大学防災研究所年報 第 50 号 B 平成 19 年 4 月 Annuals of Disas. Prev. Res. Inst., Kyoto Univ., No. 50 B, 2007 中立に近い安定度の大気境界層における乱流構造の観測 －解析のまとめ－ * 堀口光章・林 泰一・植田洋匡 * 酸性雨研究センター 要 旨 ほぼ中立な大気境界層における乱流構造を潮岬と信楽において観測した結果を解析し た。連続ウェイブレット変換の方法を用いて下降する強風域による乱流構造の様子を明 らかにした。これは，本質的にはこれまで乱流境界層に対する実験により示された組織 構造の一種である。大きな時間スケールを持った強風の乱流構造は下方への運動量輸送 に大きな寄与をなしている。乱流運動についての四象限解析により，スウィープ（高速 流の下降運動）が運動量輸送に重要な役割を演じていることが明らかにされたが，この 結果はおそらく大きな規模の強風の乱流構造と関連している。 キーワード: 大気境界層，乱流，組織構造，運動量輸送 1. はじめに 調べる。今回の報告では，潮岬と信楽において行っ た観測結果の解析について，そのまとめを行う。 室内実験により，境界層流れや管内流の乱流中に 組織構造が存在し，乱れの生成と乱流輸送に大きな 2. 大気境界層乱流の観測の概要 寄与をなしていることが示されている（Kline et al., 1967; Corino and Brodkey, 1969 など）。これらの実 京都大学防災研究所附属流域災害研究センター 験は，移流による作用の粘性による作用に対する大 潮岬風力実験所（和歌山県東牟婁郡串本町）は，台 きさの比を表すレイノルズ数が小さい条件，あるい 地状の地形をした岬の南西端近くに位置しており， は壁面に近い領域を対象にしたものが多い。 付近に大きな建物などがなく，大気境界層観測に適 この研究で対象としている大気境界層では非常 した場所である。 に大きなレイノルズ数となっており，その大気境界 この場所での観測は 1998 年 11，12 月に行った。 層中でどのような乱流構造が見られるかを調べる 超音波風速温度計を本館測風塔 （地上からの高さ約 のが研究の目的である。 20m）に設置して地表近くの気流と接地層の安定度 大気境界層の地表近くで，微細前線（microfront） を測定し，ドップ