从作品《春琴抄》看谷崎润一郎的美意识世界.pdf

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1、はじめに 西洋の頽廃美の要素を崇拝した谷崎は「蓼喰ふ虫」をきっかけとして、 西洋からはなれ、本格的に日本の伝統的な古典世界の中にその文学を展開 して「日本回帰」を試みるが、これが失敗に終わる。谷崎は、昭和期にな ると日本回帰とともに「美しいものは強者である」という世界を再び描い ている。その世界がよくわかる作品は「春琴抄」である。谷崎は、春琴と いう女性を造形し、「強者」としての女性美を描きながら、日本回帰を試み た。したがって、本文では、鮮烈な色彩に輝き、強烈な刺激をもたらす西 洋的芸術の世界を称賛していた谷崎が、日本回帰の際に西洋的な要素を完 全に排除したのかという疑問を「春琴抄」(「中央公論」1933.8)において 究明しようとする。谷崎の日本美への転向は関西移住がきっかけになって いる。谷崎は「関西風のもの」に魅了され、「春琴抄」にその雰囲気を反映 させたが、実際は完全に日本的なものに回帰したとは言えず、基本的には やはり西洋的なものへの嗜好が潜在していることが伺える。谷崎は、日本 的な美、あるいは「陰翳美」をこの作品で表そうとするが、完全に払拭し 切れなかった。それはままごと遊びの枠組みによるサデイズムとマゾヒズ ムの世界には西洋的な要素が伺えるからである。谷崎の「春琴抄」におい ての日本回帰がどのように行われ、また「強者としての美」がどのように 再現されるのかについて述べていく。 5 2、先行研究 2.1 作品創作背景説明 谷崎は新人作家として華やかに文壇にデビューした。彼の作品の中に現れ ている「美」の世界は文壇に鮮やかな衝撃を与え、従来の日本文学にはあま り見られなかった異質な主題であった。それは、自然主義全盛期の文壇や、 一般文学愛好者の目を見張らせるのに十分であった。その背景には、永五荷 風が谷崎の処女作「刺青」(第二次「新思潮」第三号、1910.11)について、 「肉体的恐怖から生ずる神秘幽玄」、「全く都会的たる事」、最後に、「文章の 完全なる事」と、谷崎文学を称賛したことが谷崎の文壇デビューへの大きな 後押しになったという事情もあった。明治・大正・昭和の三代にわたる谷崎 の長い文学活動の要諦を簡潔にまとめるのは困難である。しかし、谷崎文学 は、或る一面から見れば、同じ主題が展開されている。それは、「美しいも のは強者であり、醜いものは弱者である」という美意識である。 2.2 先行研究の谷崎潤一郎の「春琴抄」までの作品におけ る美意識 谷崎の女性美に対する認識は、日本の作家の中では、まず尾崎紅葉や山田 美妙などからヒントを得たと考えられる。さらに、外国の作家から影響を受 けたことも谷崎の作品の中によく現れている。特に、谷崎が文学活動を開始 した時点から外国文学の影響が見えると思われる。 谷崎の作品の中で、「強者」としての美が始めて現れたのは明治期作品の 「刺青」である。尾崎紅葉、山田美妙、永五荷風などの作品から影響を受け ながら、谷崎は自分なりの独特な美の世界を作り上げる。ここで、「美しい 6 ものは強者であり、醜いものは弱者である」という思想が谷崎文学に定着し たと言われる。 その後、谷崎は大正期において、男性の身体から女性美を抽出して、中性 美と両性具有の美の具現を試みた。代表的な作品は「金色の死」である。 そして、谷崎は昭和期の作品「春琴抄」において日本回帰に関係する美意 識が変化した。 「谷崎潤一郎論ー伏流する物語」永栄啓伸1992 は、作品の背景となる昭 和初年代の谷崎が、あえて曖昧な語りを使用し、読者に多様な読みを許す物 語を構築した原因や、物語の構造とその枠組からはみだそうとする言葉のせ めぎあいを述べている。「谷崎潤一郎ー母性への視点」永栄啓伸1988 は母性 の視点を取り、母性思慕が作品での女性上位の男女関係を構築する根となっ ていることが論じされる。「谷崎潤一郎」秦恒平1989 は谷崎の私生活に深く 探り込む作業、そして鋭い想像力を駆使した執拗な追求によって、巨大なる 谷崎の世界を明らかにしている。 2.3 問題点の提出 本文では、鮮烈な色彩に輝き、強烈な刺激をもたらす西洋的芸術の世界を 称賛していた谷崎が、日本回帰の際に西洋的な要素を完全に排除したのかと いう疑問を「春琴抄」(「中央公論」1933.8)において究明しようとする。谷

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