环济吴纪辑本.PDF

（99） 環濟『吳紀』輯本 満　田　　　剛 はじめに 　 陳壽 『三國志』吳書 （以下、 『吳志』 と略す）の裴松之注 （以下、「裴注」 と略す） に引用 された吳 に関する史書 として韋昭 『吳書』や張勃 『吳錄』、胡沖 『吳歷』（『吳 曆』）などとともに挙げられるのが、環濟 『吳紀』である。 　 しか し、 この環濟 『吳紀』 は完全 な形では現存 していない。 したがって、 『三 國志』裴注や 『世說新語』劉孝標注、『初學記』、『 文類聚』、『太平御覽』、『文選』 李善注 ・六臣注 などに引用 された部分的な形で しか見 ることがで きない。 さら に先行研究 ・輯本 もな く、基礎的かつ総合的な研究がなされているとは言い難 い。 　そこで、本論文では環濟 『吳紀』の佚文を網羅的に収集 ・整理 して 〔表〕『吳紀』 輯本 目録 （以下、「〔表〕」 と略す）1） を作成 し、 『吳紀』の輯本 を作成する中で得 ら れた知見 をもとに、環濟 『吳紀』の性格 について可能な限 り分析 し、基礎的包 括的な研究を進めていきたい。 １） この輯本では、本文や脚注 において 『吳紀』佚文 を指す際に、 〔表〕における 「書 名／注者名 ・番号」 を用いることとす る。〔表〕 における 「書名／注者名 ・番号」 の配列は、 まず 『三國志』裴注 を配置 し、その後は 『文淵閣四庫全書』での書籍の 順番 に従い、最後 に 『本邦殘存典籍 による輯佚資料集成 續』、参考資料 を挙げてい る。また、同一所収書か ら採録 した佚文の配列は、原書の巻次に従 った。 136 （100） 〔一〕環濟と『吳紀』及び『吳紀』以外の著作について 　環濟に関する傳 などは存在せず、 『隋書』卷三十三經籍二史部正史類 に 吳紀九卷　晉太學博士環濟撰。 とある2） ように、晉の太學博士であったこと以外、詳細 はよくわか らない。 　 『吳紀』 については、上記の 『隋書』以外 にも、 『 唐書』卷四十六經籍上乙 部史錄編年類 に 吳紀十卷　環濟撰。 とあ り、 『新唐書』卷五十八 文二乙部史錄編年類 には 環濟吳紀十卷 とあるが、 『隋書』經籍志では正史類 に、 『 唐書』經籍志 ・『新唐書』 文志で 3） は編年類 に分類 されている 。 　環濟の 『吳紀』以外の著作 としては、『隋書』卷三十三經籍一經部禮類では 『喪 服要略』 一卷 が、 また 『隋書』卷三十三經籍二史部雜 史類 には 『帝王要略』 十二卷が挙 げ られている （『 唐書』卷 四十六經籍上乙部史錄雜史類や 『新唐書』卷 五十八 文二上乙部史錄雜史類）では、「『帝王略要』十二卷」 となっている）。 　 ちなみに、 『隋書』卷三十三經籍二史部雜史類では 帝王要略十二卷　晉太學博士環濟撰。紀帝王及天官、地理、喪服。 周載八卷　東晉臨賀太守孟儀撰。略記前代，下至秦。本三十卷，今亡。 とあ り、各書の著者の時代が晉 と東晉で区別 されている。 このことも踏 まえる と、環濟は少な くとも西晉期 にも生存 していた人物である蓋然性が高い。 ２） 『通志』卷六十五 文略第三 ・史類第五 ・編年 ・魏吳 にも 『隋書』經籍志 と同様の 記事がある。 ３） 『三國志集解』卷五十三 ７ａにも同様の指摘がある。 135 環濟『吳紀』輯本 （101） 〔二〕佚文などから見た『吳